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流れる人の群れ、紛れる自分、見上げれば広い空。
最高の人間観察日和だ。

臨也は鼻歌を交え、軽い足取りで60階通りを練り歩いていた。
今日は運の良い事に毎回喧嘩を吹っ掛けてくる、否、ゴミ箱やポストや車を投げつけてくる天敵、平和島静雄の姿も見ていない。
流れる風に身を任せ、足の進む方へと歩むだけだった。
そんな時、

「そこの綺麗なひとー!」

臨也は少年と出会った。




きみ攻略マニュアル




「こんにちは、臨也サン。」
「また君?」

池袋に降りたって約2秒。
気づけば少年、…六条千景は南口を出たすぐの柱に寄りかかり、臨也の姿を認識すると直ぐ様声を掛けてきた。
彼と出会って3日。
池袋に来る度に出会うのが天敵の平和島静雄で無くなった事を喜ぶべきなのか、臨也はため息をついた。

あの時、どこかあどけなさが残る声だと思った。
一際でかい声を上げるこの声の主のナンパ野郎は一体どんな奴なのだろう?臨也の中でひとつの興味が沸いたのだ。

臨也は興味津々と言わんばかりにくるりと振り返ると、ばっちりと合う視線に、え、と声を洩らす。

「あれ、まさか男だったりしちゃう?」

でも俺、性別は気にしないんだ、と強引に腕を引いてきた千景の対応に、他人事のように人間はやはり面白いと感心できたのは昨日までだ。

その日は興味の方が強く、強引な千景に合わせる形で池袋の町を巡回する事にしたが、途中に平和島静雄と遭遇。千景は静雄と知り合いのようだったがお構い無しにゴミ箱が飛んできた。

千景に付き合うのも飽きた臨也は好都合だとばかりに静雄だけではなく千景までもを撒き、帰路についた。
既にその時点で臨也の記憶の中から六条千景という人間のデータは削除されていたが、今日、彼の事をすぐ理解できたのは…。

「ちょっとしたストーカーだよ、千景くん」
「いやいや、猛烈ラブアタックです!」

昨日もそのまた前の日も、彼は臨也を池袋の駅で待ち続けていたからだ。

どこから手に入れた情報かは不明だが、千景は臨也が新宿を根城にする情報屋だという事。仕事で度々池袋を訪れる事を知ったようだ。


また会えると思った。と静雄と千景を撒いた翌日、駅前で待つ彼は、いつも居る取り巻きの彼女達が居ない分、その瞬間は映画のワンシーンのようだった。

ねえ臨也サン、今日はどこ行くの?
ニコニコと顔の半分は痛々しく包帯で巻かれている癖に笑顔を振りまき、頼んでもいないのに肩を並べて歩く羽目になる。

彼の観察に飽きたのは、彼の考えと行動がありきたりだったからだ。普通、という言葉が良く似合う。
途中、男が可愛らしい女の子を下品にナンパしてる場面に遭遇した時には少し好奇心は沸いたが、その程度だ。
平和島静雄に半殺しにされたが立ち上がった、という話だけは信じてやろうと思う程度。

「いやあ、ここですれ違った時にすっげえ黒髪美人サンだ!って思った訳よ、で、声をかけたら一層美人サンで、」
「それは俺の事を言ってるのかな?」
「もちろん。」

60階通りを歩いていく、確か依頼人の会社はこの近くだったはずだと頭に入れた地図を思い出しながら臨也は歩を進めた。
千景はすぐ後ろから世間話をしながら付いてくる。

「ねえ臨也サン、今日は俺とお茶しない?」
「残念だけと暇じゃないんだ。」

あれま、と千景は面白可笑しくその場を茶化した。
臨也もにっこりと笑ってコートを翻す。

「じゃあ臨也サンの家に行きたい!高級マンション!」
「却下。…俺は今から仕事だから帰ってくれる?」
「じゃあ待ってる。」


ここで、待ってる。と千景は笑って帽子に手を添えた。
ああ、と臨也はあるひとつのデータが頭を過る。
あの平和島静雄に喧嘩を売った大バカ野郎はコイツの事だった、と。

顔に巻かれた包帯がその証拠だ。顔の半分は包帯という無残な姿。
よくもまあ、この状態で暢気に池袋を歩けるものだと感心する。
臨也と居ればまた平和島静雄と交戦する羽目になるという可能性が無い訳ではない事ぐらい、初日にわかったであろうに。
思考を巡らせる臨也とは裏腹に、千景はにっこりと微笑えんだ。

「今日は、俺とお茶して。次はデート。んで臨也サンの家に行って、」
「ちょっと、なに勝手に決め――…」

相手の答えなどお構い無しに、千景は一気に距離をつめ、臨也の腕を取る。



「だって一目惚れだから。」



絶対に逃がさないよ。と初めて真剣な眼差しで紡がれた言葉に、臨也は息を飲んだ。

(ああ、もうだから人間は面白い。)

少しぐらいは振り回されてみるか、



「考えておくよ。」


臨也は笑みを溢し、千景は瞳を丸くしていた。

(うわ、めっちゃ美人、)



(20101020)

だって君が好きだから」提出

初めての千景×臨也にどきどきでしたが楽しかったです!




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