A melody of love. | ナノ



ただぼんやりと小さくなる背中を見つめていると、ぽん、肩を叩かれる。この学校に知り合いはいなかったはずだ、と静雄は考えながら振りえると同じ制服を身にまとった男子生徒がそこに居た。

「静雄、だよな」
「手前は?」
「同じクラスの門田だ。HR抜け出しただろ?担任に頼まれて探してた。」

きっと、優等生、というのは彼のことをいうのだろう。名前も知らない相手の事を探して来てくれるだろうか? 金髪だからすぐわかった、と目を伏せる彼……門田に静雄は礼を述べる。そして今更だがHRを抜け出して臨也を探してしまったのだと思い出した。門田の行動に関心と感謝をしていると、手に持っていたプリントを渡される。

「ほら、配られたプリントな。初日から抜け出すなんてもう勘弁してくれよ、」
「ああ、悪かったな。……探してる奴が居てよ。」

きょとんとした目で、門田は静雄を見やる。視線を臨也が走っていったほうに向ける。

「会話は聞こえなかったが、臨也の知り合いなのか?」

門田の口から紡がれた名前にぎょっとする。静雄は何故それをと言わんばかりに瞳を丸くすると、門田は頭を掻き少し考えるようにうーん、と唸った。

「…俺とアイツは中学からの付き合いなんだ。」
「…………俺はヴァイオリンをやってる、」
「…へえ、なるほどな。」

門田は何度か瞳を瞬かせ、珍しいものを見るように静雄に視線を向けたが、やがてその視線は険しいものになった。

「臨也に、ヴァイオリンについて何か言ったか?」
「……どうゆう意味だ?」
「ヴァイオリンをやってるなら臨也の事、」
「知ってた。天才ヴァイオリニスト、折原臨也。………俺の、」

憧れなんだ、と続けようとする静雄だったが、門田のため息によってその言葉は遮られてしまった。

「アイツの前で、ヴァイオリンの話はやめておいたほうがいいぞ。」









流れる暖かな風に身を委ねる。髪がさらさらと揺れ、瞼を閉じる。

「ヴァイオリニスト、の?」

驚きの、瞳。全身から喜びを感じた。だがそれが、臨也にとって一番ツラい事だった。現役を退いた今、ひっそりとただの折原臨也としてヴァイオリンを持っている。昔の折原臨也を重ねてみられる程、ツラいものはないのだ。

けれど。と臨也は思う。いつもならば、屁理屈と物事を論理的に並べたて“折原臨也”像をぶち壊し、相手を幻滅させてきたが静雄に対してはそうはしなかった。
止めろと言ったのは、忠告。

(凄く懐かしい感じがした、)

まっすぐな瞳。揺らぎの無い瞳。決意の瞳。綺麗な茶色の瞳が印象的だった。音楽に対して、彼には未来があるんだろう。と臨也は天を仰ぐ。

昔、それこそ臨也が静雄のように真っ直ぐな瞳をしていた頃。同じように夢を見ていた気がする。

「諦めない、か。」

ステージに立ち、自身の音楽を奏で拍手をもらっていた頃。折原臨也が天才だとうたわれていた頃。

「…プロになって、シズちゃんは何がしたいんだろうねえ、」

囁くように風が流れて、真新しいタイを揺らす。校舎から出てきた生徒は臨也に目もくれず歩を進め、過ぎ去っていく。天才とうたわれた彼を知っている者はもう数少ないのだ。

ケースの紐を強く握る。臨也は現役を退いて尚、ヴァイオリンを手放せなかった。普通科ではなく音楽科に入学してしまったのも、ヴァイオリンから離れられなかったからだ。

「もう、プロなんて興味はない。興味は無いけど、」

これを手放したら何も残らない。臨也は逃げる事にも中途半端な自分が嫌いだった。やめたいと言いながら手放せず、母親の悲しみに染まる顔を今でも思い出す。

ヴァイオリンを始めた理由は、なんだった?

自問自答するように投げ掛ける。答えはすんなりと浮かんでくるのだ。両親の喜ぶ顔が見たかった。簡単な理由。子供が良く思う事だ。

臨也は張り巡らせた思考を遮断するようにぶんぶんと頭を振り、息をつく。

(嫌だなあ、どれもこれも下手くそシズちゃんのせいだ。)

全く弾けない癖に、夢だけは綺麗に抱いている静雄に臨也は苛立ちを覚え早足に校門をくぐった。
それを“羨ましい”という感情だとは気づかずに。


lusingando
(魅力的な、その瞳の中の自分を見つめ、彼はある見つけ物をした)



(20101103)


ドタチン登場です(^O^)!


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -