短編小説ログ | ナノ


※病んじゃった臨也さん注意




ふ、と目が覚めて気づいたら真っ白な部屋の中だった。
ここはどこだろう、と青年は周りを見渡して真っ白なシーツを剥ぐ。その時に自分はベッドに横になっていた事を理解したようで、その青年はシーツを握った。
どうしてここにいるんだろう、青年は何も覚えていなかった。

大きな窓を見れば真っ青な空が覗き小さな鳥が舞う。青年は身を乗り出して、ぺたぺたと足を鳴らし大きな窓に手をついた。


「ぅわあ、すごい!」


小さく歓声を上げて鳥に向かって手を振る。その時、窓に反射した自身の顔を見た。そこに映し出されていた黒髪の姿。それが自身の姿なのか。青年は不思議そうに細い指でなぞった。
ぱちぱちと目を瞬かせその姿をまじまじと見つめていると、不意にガチャリとドアが開く音に振り向いた。
そこから覗いた金色の髪の毛に青年は瞳を丸くしてぱぁっと表情を明るくした。


「つがる!」


津軽と呼ばれた青年は持っていた花束を見せると不思議な表情で微笑んだ。茶色い瞳で黒髪の青年を見る、小さく唇が震えていた。
震える唇で必死に声を出そうとする津軽は、黒髪の青年が胸に飛び込んできたことによってその口を閉じ、確かめるように抱きしめる。


「ねえ、津軽。ここはどこ? なんでこんなとこに居るの? ねえ津軽、」
「…つが、る…」


黒髪の青年は津軽を見上げ不安そうに眉を寄せる。すると津軽もまた眉を寄せた。名前は、と震えた声で言うと青年は忘れちゃったの? と津軽の服を握った。


「津軽は津軽でしょ? 俺はサイケだよ? 忘れちゃったの? ねえ、つが、」


サイケの言葉の途中にも関わらず、津軽はぎゅうぎゅうと強く自身をサイケだという青年を抱きしめる。それを、痛いよー!と笑うサイケは津軽が今にも泣きそうな顔をしていることを知らない。


「ほら、この羽織! やっぱり津軽だよねえ! ……好き、津軽、」


サイケは津軽の背に手を回し津軽に負けないほどに強く抱きしめ返す。
ねえ、俺の名前、呼んでよ。
頬を津軽の服にすり寄せながら、そっと呟いたかと思うと、サイケは糸の切れた人形のようにだらりと四肢を投げ出し、意識を失った。


「夢を見てるんだ、」


津軽と呼ばれた青年はサイケを抱きしめたまま、崩れてしまう。膝をついて黒髪に頭を埋めると、起きてくれ、と小さく訴えた。


「頼む、起きてくれ、―――……臨也。」


それは折原臨也が倒れ、病院に運び込まれて一ヶ月が経った頃のはなし。




サイケデリック・ドリーム




「目が覚めないってどういう事だよッ!」


ガタンッと大きな音を立て、静雄は新羅の胸倉を掴み上げていた。新羅は呻き声を上げるが、静雄の手を叩き離すように促す。視線を横に流せば真っ白な皺ひとつない綺麗なベッドに眠る、臨也の姿があった。
静雄は舌打ちを零しながらパイプ椅子に戻ると、くそ、と顔を両手で覆う。

折原臨也が裏路地に倒れているのを発見したのは首無しライダーと呼ばれるセルティ・ストゥルルソンだった。白い顔をして裏路地に捨てられていた臨也を保護し、新羅に連絡を入れたのが昨日。
昏睡状態にある臨也に適切な処置を施すが丸一日が経過しても何の刺激にも反応を見せない。自宅マンションでは限界があると判断した新羅は近くの病院を手配したのだった。


「腕に、何か注射した痕跡があった。」
「ヤク、か…?」
「わからない。けど、目覚めないのに何か関係しているとは思う。何か薬物を投与されていた場合、目覚めても後遺症が残るかもしれない。第一に、」
「目覚めねえかもしれねえ、かよ…ッ!」


何もできなかった悔しさに静雄は、くそくそくそ、と何度も叫ぶがそれは新羅もまた同じだった。


(僕は、医者なのになあ、)


それから毎日のように静雄は臨也の病室を訪れては花瓶の花を取り替えに訪れた。毎日臨也は死んだように眠り続け、瞼が揺れることもない。

静雄は毎日起きろよ、と声をかけ続け毎日頭を撫で続けた。だがしかし行為も空しく、臨也は目覚めることなく時間だけが過ぎていく。
真っ黒な髪の毛と真っ白なシーツ。嫌なコントラストに目を瞑るしかできなかった。


そして、臨也が倒れてから三週間が経った頃、
静雄がいつものように病室に訪れると、そこには上半身起こし空を楽しそうに微笑みながら眺めている臨也の姿があった。あまりの衝撃にひゅ、と喉を鳴らすと臨也は静雄の存在に気づき表情を一層明るくした。

ここで静雄は表情が異様に明るい臨也に異変を感じるべきだったのだ。

持っていた花を乱雑に扱いながら、すぐに臨也を抱きしめる。久しぶりの温もり、久しぶりの声、久しぶりの―――……、

ギシッとベッドが悲鳴を上げても静雄は臨也を抱きしめる事をやめなかった。
痛いよー、と訴える臨也をそっと離して綺麗な赤い瞳にほっと胸を撫でおろす時、ねえ、とどこか幼い声が響いた。

臨也? と静雄が声を上げようとしたとき、きょとんとした臨也の表情にぐっとその言葉を飲み込んだ。


「どうしたの? 津軽?」


それからも臨也は静雄を津軽と呼び、どうして自分はここに居るのかと聞いた。
さっきまで遊んでたのになあ、鳥さんとね、遊んでたんだよ! 津軽も今度一緒に遊ぼう!
折原臨也だとは思えない幼いしゃべり方、静雄は臨也に名前を聞くと大きな瞳を丸くして「俺はサイケだよ?」と言った。
口を尖らせ、忘れちゃったの? という臨也に静雄はぐらりと世界が揺れたような気がした。


臨也は静雄を「津軽」だと呼び、その「津軽」は青い着物を着ているのだという。それはたとえ静雄がいつものバーテン服を着ていても、サイケには青い着物に見えているようだった。
臨也は次第に体力を回復させ、ベッドから出ることが出来るようになったが、部屋から出される事はなかった。

静雄は臨也に津軽だと呼ばれ続けたが病室に通う事を止めなかった。今までと同じように花を持ち寄り、花瓶に差す。サイケだという彼は花が好きだと笑って、また眠りについた。

臨也は目覚めてもなお、数時間後、数分後にはまた眠りについてしまう。その間隔は不定期であり、逆に眠り続ける時もあった。

そして次に目覚めたときに、前の記憶は残っていない。

毎回ここはどこ、俺はサイケ、貴方は津軽、と続けられる毎日は夢のように現実味がなかった。


次第に静雄はこれは夢で、臨也は夢から目覚めていないのだと思うようになった。毎回サイケを抱きしめ、起きろと囁きかける。

これは幻影、これは夢なのだ、起きてくれ、

何度呼びかけ、何度訴えても臨也はただ笑った。



「ねえ、津軽、俺の名前、呼んでよ!」


呼ぶ名前は、サイケか臨也か。何と呼べば、お前は帰ってくるのか。
静雄は細い臨也の肩を抱きながら、気づかれないようにそっと涙を流した。


「―――――…、 」



(20110131)

サイケデリックって思えばなんか病んでる感じの意味だよなあ、と思って生まれた病んでしまった臨也さんでした。
臨也さんが誰かに薬を打たれたのかも自分で打ったのかもノープランです(笑)
ただ派生の津軽サイケを脳内世界の人間にしたかっただけ…っていうね…、
津軽サイケはシズイザの良いとこだけを持ってるキャラかなあ、と思って精神的に病んだ臨也さんは脳内世界から返って来れないって話…。
続きを書くなら本当にサイケってキャラが居て、そいつは臨也を乗っ取って現実世界に生まれてきたーみたいな?確実に病んでるサイケたんになるなあ…、津軽じゃないっていうなら殺すよ、とかさらっと言う人…とか…。
「臨也くんはね、傷ついて、もう嫌になったんだって!だから俺がこの身体を貰うの!」みたいな…どんな厨二だよ…
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