短編小説ログ | ナノ





久しぶりにちゃんと教材を入れるなあ、と臨也はぼんやりと考えながらスクールバックに使われないせいで未だに真新しい筆箱、英単語帳、その他必要な物を詰め込みチャックを閉めた。
分厚い参考書による重みを肩に感じながら、何時ものようにマフラーを巻いて扉を開ける。ひんやりとする冷気が頬を掠め、ぶるりと肩を震わせた。




笑顔の言葉




もうあと数週間で3年あった高校生活も一時終わりになり、卒業式まで自宅学習期間に突入する。その間に一般試験が控えているが、まずは今日あるセンター試験だ。受ける教科によって開始時間がまちまちだが、臨也は午後からのスタートだった。そのため土日で少し多い人混みの中を臨也は歩いていた。
かじかんだ手にハァー、と息をかける。その場しのぎの行為を何度も繰り返し寒さをしのいだ。


「――…臨也ッ!」


ざわざわと五月蝿いはずの中から、はっきりと聞こえた声に振り返る。そこにある金髪――静雄の姿にきょとんと臨也は目を瞬かせた。静雄は見つけた、と上がる息に混じれ呟く。


「なに、してんの?」
「俺は手前のアドレスも電話番号も知らねえからッ!」
「うん。教えてないしね。だから?」
「だから、探してた。」
「シズちゃんに付き合ってる暇は無いんだけどなあ。」


ポケットの中にある携帯を取りだし時間を確認する。余裕を持ってでてきた方だが静雄と追いかけっこをしている時間はなさそうだった。センター試験に間に合わないという事態は避けたい。あのテストはお金がかかっているのだ。

ぱちん、と携帯を閉じてポケットに仕舞うのと同時にナイフの柄に触れる。体制は万全。じり、とコンクリートと靴が擦れる音を聞いて軽く息を吸う。逃げ切れない事もないだろう、と少し落とした視線を静雄に向ける。だが、静雄はいつものように青筋が立っている訳ではない事に気が付いた。
拍子抜けするようにナイフから手を離す。


「………、頑張れよ。」


耳に入って脳を通り、また耳に抜ける。頑張れよ? 告げられた言葉に対して臨也は無意識に内に、何が? と返していた。


「試験、あんだろ。」
「センター?」
「おう。」
「………はあ? 嫌ごめん、何? センター頑張れって? シズちゃんが? 俺に?」
「それ以外なにがあんだよ。殴るぞ。」
「……ああ、そう。」


――…シズちゃんが俺に、ねえ…。
これ以上言うと本当に殴られそうだ、と臨也は口を閉ざす。静雄のまさかの言葉に、気が狂ったのかと吟味しているとおい、とぶっきらぼうに呼び止められた。


「勘違いしてんじゃねぞ、このノミ蟲。」
「勘違いも何も、」

「受験なんざで振り回されてる手前は殺しにくいんだよ!」


―…さっさと終わらせろ!
続けざまに静雄は叫び、寒さかわからないが耳まで赤くなっていた。少し呆けて後、臨也は、ぷ、と沸き上がる笑いに耐えきれず吹き出してしまう。


「ぷ、あははっ! そうだよねえ! シズちゃんは意外と常識人だもんねえ!」
「うっせえな! さっさと行けよ! もう用はねえ!」
「ははっ! あー、笑った笑った。」


ひーひーと腹を抱える程に笑いこけた臨也に静雄は青筋をビキリと浮かび上がらせ拳を握った。ハァー、と臨也は息をつき、ワインレッドの瞳が細められた。


「頑張ってくるよ。」


シズちゃんに、応援されちゃあね? と臨也は静雄の名前を強調しながらも自然な笑みを溢した。崩れたバックを肩にかけなおし、臨也はじゃあね、と言ってひらひら手を振り静雄に背を向ける。歩き始めた臨也に静雄は何を言うでもなく、マフラーを顔を埋め冷たくなった手をポケットに突っ込んだ。

ちゃっちゃと受かれよ、




(20110115)

本日と明日のセンター試験、受験生頑張ってください!
成田先生が臨也は大学に合格していると呟いていたので時期的な話を…挫折したがな…
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