短編小説ログ | ナノ



君に、触れる


雲ひとつない真っ青な空。吸い込まれてしまいそうなその群青色を見つめながら、静雄は枯れて落ちてしまった葉を踏み、通学路をただぼんやりと歩いていた。巻いたマフラーが何度かずり落ち、巻き直しながら校門をくぐり昇降口へと向かうと、ひとつの人影があった。

「あ、おはよ、」
「……おう。」

丁度下駄箱から上履きを取り出していた臨也は、眠たそうに瞳を擦り、跳ねた前髪を直しながらただ挨拶をすると無言で去っていく。違和感。何か引っ掛かるものを感じた静雄だったが、それが行動か態度か仕草か見た目か。検討がつかなかった。だが感じた違和感を拭うこともできない。いつもの怒りが沸き上がる感覚とは違う苛立ちに静雄は乱暴に下駄箱を閉め教室へ向かった。

違和感は増すことも無ければ減ることもなく1日の時間が過ぎていく。もやもやとした感覚が必ず頭の隅に存在しているのが腹立たしかった。

ついでに今日はやけに臨也が静かな日だった。会話もろくにしていないために未だ喧嘩にもならない。朝から口喧嘩を始めてもおかしくない毎日を過ごしている臨也と静雄だったはずが、臨也は静かに授業に出席し頬杖をつきならが髪を撫でては空を眺めている。静雄も臨也がちょかいを出さなければ暴力を奮う必要もないのでただ黙る。するとそこに会話は存在しない。



「手前、何か変だよな?」
「意味わからないから。日本語ぐらい正しく使ってよ。」


お昼休みに寒くなってきたのにも関わらず屋上へと集まった新羅と門田とを合わせ4人は歪な円を描き腰をつく。臨也の向かいに座った静雄は臨也の顔を見て、第一にそう言った。静雄の言葉に眉を潜め吐き捨てるように肩を竦めるとまた静雄の中で違和感が生まれる。何かが違う。今までと、何かが。だが門田も新羅も今までとさして変わらない態度だった。静雄はただの杞憂かと瞳を伏せた、その時だった。
ブワッ、と冷気を纏った風が屋上へと流れた。同時にメロンパンが入っていた袋はその風に飲まれる。あ、と臨也が手を伸ばすのも虚しく空へと吸い込まれていった。
袋と共にふわりと流れた臨也の髪の毛に、静雄は違和感の正体に気付いた。

「………手前、髪、」

「あ! 臨也髪の毛切った? 全然気がつかなかったけど!」

無意識に臨也の髪の毛へと伸ばした手が空を切る。新羅の言葉に急いで伸ばした手を引っ込ませた。指摘された臨也は焦った様子で前髪を押さえ少し顔を赤らめていた。

「シズちゃん最低! やっと忘れかけてたのに!」
「別にそんな気にするほどじゃないと思うぞ?」
「ドタチンはわかってない!」

「……ああ、」

確かにパッと見た感じでは今までとなんら変わりない臨也の髪型。少し髪の量が減った程度かもしれない。だが静雄が感じていた違和感は、臨也の、


「…前髪、短くなってんな。」


少し額が見えるような形の前髪。目にかからない程度に切られ右分けにされたそれはとても幼くみえてしまっていた。臨也はそれを気にしているのだろう。だから、

(朝も授業中もずっと髪の毛弄ってたな、)

つかれたくない所をつかれ臨也はわなわなと口を震わせる。顔は一層赤くなり、それは耳にまで達していた。今まで誰にも指摘されなかった事を静雄に指摘されたのが堪えているのだろう。りんごのように赤くなる臨也の顔に、静雄はついに吹き出してしまいククッと笑いを溢した。

「可愛いんじゃねえの?」
「死ね!」





(20101117)

臨也さんの短い前髪についてのお話。

でも髪の毛切ったのに気づかれないと少し寂しくないですか?え、私だけ?


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