短編小説ログ | ナノ


※ハロウィンネタ



手が冷たい。そろそろバーテン服だけではキツくなってきたなあと染々感じながら静雄はマンションへと歩を進めていた。津軽は2歩ほど後をついてくる。夕暮れに金髪が揺らめいていた。





「トリック・オア・トリート!」

臨也から連絡を受け、マンションの戸を叩く。迎えてくれたのは予想通り笑顔が似合うピンクのヘッドフォンを着けたサイケだった。

「………は?」

静雄は鉄砲玉を喰らったような顔をする。津軽はその後ろからひょこりと顔を出し、きょとんとした表情でサイケを見つめた。

「トリック……、ああ、ハロウィンか。」
「……ハロウィン…?」

津軽は聞きなれない単語に疑問符を掲げていると、津軽!とサイケは津軽の腕の中に飛び込み、にっこりと笑った。そして再度「トリック・オア・トリート! つがる!」と叫ぶ。

本日、10月31日。所謂ハッピーハロウィンの日だ。
静雄は納得したようにサイケを見、玄関を上がる。迎えてくれたもう1人の黒髪の男、臨也はニヤニヤと笑みを浮かべていた。

「手前だろ。サイケにあんなん教えたの。」
「あんなん、とは失礼だなあ。あ、Trick or Treat、シズちゃん。」

手を伸ばして臨也はお菓子を求める。今さっきハロウィンの事を思い出したのだから求める物を所持している訳が無い。静雄は吸っていたタバコを携帯灰皿に投げ、臨也の横を素通りしソファへと腰を落ち着かせた。はあ、とため息が聞こえたが無視を決め込んだ。
とたとたと足をを鳴らしサイケがリビングへと顔を出す。そのままの勢いで頬を膨らませ、臨也の腰に飛びついた。

「いざや!津軽がお菓子くれない!」
「本当に? ひどいもんだねえ、シズちゃんも、津軽もさ。」
「うっせえ、その歳で菓子なんざねだんな。」

「静雄、ハロウィンってなんだ?」
「本当はかそうってのをして、お菓子をくれなきゃイタズラするぞっ!てやるんだって!」

津軽の抜けたセリフに臨也は呆れたようにため息をくつ。だがサイケは未だお菓子ちゃうだい!と津軽に迫っていた。困ったようにふためく津軽は静雄に助けを求めるように視線を流す。だが静雄は無視を決め込んでいる。何の反応もしてやらないようだ。ひどい奴、と臨也は冷たい視線を静雄に送ると、ぱちりと視線が混じる。

「おい、臨也。」
「なに?」
「トリック・オア・トリート、菓子よこせ。」
「………、」

ありえない、と言いげな顔つきで臨也は静雄を睨む。良い歳こいて菓子をねだるなと言ったのはどの口だ。この甘党。臨也は苛立ちを覚えたがここは耐えなければならない。黙ってキッチンへと向かった。サイケは何かを思い出したのか、ぱあっと表情が明るくなり、何度目かわからないトリック・オア・トリート!を繰り返した。

臨也がキッチンへと向かい、冷蔵庫から取り出されたもの。それは―――…


「プリン?」

表面が軽く焼かれた黄色のプリン。上品なカップに作られたそれはとても美しかった。

「パンプキンプリンだよ。」

好きでしょ?と答える臨也はどこか嬉しそうで、静雄は返答に困る。

「……何さシズちゃん。この俺が準備してないとでも思ったの? 残念だったね!」

顔に出ていたのか静雄の態度に臨也はフッ、と鼻で笑う。確かに準備されているとは思っていなかった。しかも好物のプリンを、だ。静雄は嫌みを言いながらも微笑む臨也の顔を直視できない。

「おいしそう!プリン!」
「スゴいな、手作りなのか?」

まあね、と目を細め臨也は笑う。自惚れてもいいだろうか。静雄は津軽やサイケにもプリンをふるまう臨也を見つめた。

(俺の為に作ってくれた、とか考えたら負けか?)

だがそれ以外の答えが浮かばずにいる。しかし静雄がトリック・オア・トリートと言わなかった場合はどうするつもりだったのだろうか。臨也の性格上、素直に作ったから食べて欲しい、などと言うとは考えられない。静雄は必要の無い思考を繰り返した。

おいしい!と声を上げるサイケの一言に我にかえる。サイケが笑うと津軽もつられて笑っていた。

「なに? 食べないの?」
「………食べる。」

未だに手をつけない静雄を睨み、臨也は自分の分のプリンを手に取った。そして静雄の隣に腰を落ち着かせる。スプーンをすくって口に運び、我ながら上出来だ。と頷いている。
静雄もそんな臨也を横目にプリンを一口食べてみる。口の中に広がるカボチャの甘味、滑らかな舌触りだった。

(……うまいな…)

不覚にも感心していると、臨也はふと手を止めていた。

「イタズラも、するよ。」
「………あ?」
「シズちゃんは俺にお菓子をくれなかった。Trick or Treat! お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」
「だから、なん…」
「だから!イタズラも、するから…………だから、覚悟、しておくように…」

少し俯き加減になりながら尻すぼみ気味に臨也は告げた。耳が赤いのは気のせいなのか。

うまいよ。そう静雄が告げると、臨也は当たり前だろ!と焦ったように声を上げた。
その反応に静雄は笑みをこぼし、口を開いた。

あぁ愛しい、と喉が鳴る



(20101031)

臨也さんのイタズラはベッドの上で発動します。

途中で津軽サイケが空気化した…ごめんよ2人とも…!

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