短編小説ログ | ナノ


※来神



最近、イライラする事がある。それは毎日のように喧嘩を吹っ掛けてくる不良達のせいではなく、カルシウム不足のせいでもなく、最近雨が多いせいでも無かった。
静雄は眉間にシワを寄せながらずり落ちたバックを肩にかけなおし、校門をくぐる。ラブレターなんて物が入っている訳もない下駄箱から、くたびれた上履きを取りだし勢いよく閉めた。そろそろだ、と昇降口に視線を送ると耳に付いたのは、天敵の笑い声。隣には門田の姿があった。

「やあ、シズちゃん。朝っぱらから何怒ってるのかな?」

静雄が強ばった表情なのに気付いた臨也は、ニヤニヤと嫌な笑みを向けた。その笑みはさっきまで門田に向けていた笑顔とは全く違うもので、静雄はさらに眉をひそめる。

「……ウッゼェ、」

独り言のように呟かれた声は異常なまでに低く、臨也はビクリと肩を震わせる。だが静雄は臨也の反応に目も暮れず校舎の中へ消えた。

門田は俯く臨也の頭を軽く撫で、苦笑いを溢した。



「なんなんだよ…!」

――…臨也は門田に好意を持っている。
自分に向けられた事の無い笑顔が、門田に向けられているという事実。
黒い感情が渦巻いているのを、静雄ははっきりと感じていた。







いつものように喧嘩をした。臨也はいつもの笑みを貼り付け、ナイフを振り回す。その細い腕を掴んでやろうと手を伸ばすがするりと逃げられた。捕まえてごらんとでも言いたいのか、あの嫌な笑みを残して臨也は廊下を駆けていく。
夕陽が射し込む廊下を歩いて、小さくなる臨也の背中を見やる。少しすれば門田と仲良く下校しているかと思うと怒りが込み上げていた。角を曲がって臨也の姿が視界から消える。暫く立ち尽くし、重たい足取りで教室へと向かう。さっさと鞄を持って帰ろう。




「……なんで居んだよ、」
「なんでって俺のクラスだし。」

シズちゃんのクラスでもあるけどね。と臨也は机に腰掛けた。とっくに帰ったものだと思っていた臨也は未だクラスに存在していた。その机は間違いでなければ静雄のものだ。わざわざ腰を掛けるだけではなく椅子に足を乗っけている事に気づいた静雄だが、何もしない。いつもならここで青筋を浮かべ机ごと臨也を放り投げてもおかしくなかった場面だが、拳を握る事無く、どこか冷静な自分が居た。臨也もキレない静雄に違和感を感じたのか首を傾げる。

「なに?どうしたのさ、シズ―…」
「手前はよ、」

思い出される景色はいつだって臨也の笑顔だった。だがその隣に居るのは静雄ではなく、門田の姿だ。

誰も居ないはずの教室でガタリと机が鳴く。気づけば静雄は、臨也の事を組み敷いていた。

「門田の事が好きなのかよ。」

開かれる赤い瞳からは何も答えが見えない。ヒュッと息を吸う音がやけに響き、臨也の反応に静雄の中で何かが崩れた。

「ちょ、やだ…っ!」

ぶちりと鈍い音を立てワイシャツのボタンが弾け飛ぶ。自身の目付きが酷いものだとは気づきもせずに静雄は抵抗する腕を掴んだ。

「逃がさねえから。」

ギラギラとした瞳で、揺れる赤いそれを見据えた。そして露になった胸板に顔を埋め、膨らんだ突起に舌を這わすと臨也は異常なほどにビクリと震わせ、声を洩らした。

「やだっ、シズちゃ!離して!」

腕を机に縫い付け、静雄は首筋から胸にかけ舌を這わせていると臨也が唯一自由な足をばたつかせる。足の間に自身の足を捩じ込み自由を奪うと、シズちゃん!と一際大声で臨也が静雄の名を叫んだ。

「違うから、お願い、話を、聞いてよ…」

震える声で臨也は呟いた。ぎゅっと瞑った瞳はきっと涙の膜で揺らめいているのだろう。静雄は我に返り、とっさに顔を上げた。手を離して、と小さな声で訴えられ、恐る恐る押さえつけていた手の力を抜くと、すぐに温もりが消えた。目を伏せ、ぎりっと奥歯を噛み締める。

「…………悪かっ、」

悪かった、そう謝罪しようと口を開いた瞬間、ガタリと机が揺れた。視界に映った黒い髪、赤い瞳、白い肌、そして感じた重みと人の体温。
抱き締められていると気付くのにかなりの時間を要した。首に回された腕。鼻にかかる髪の毛と肩にあたる息。抱き締められているのだ。

「なん、だよ、」
「ドタチンが好きとか、意味、わかんない。」

未だに少し震えている声と、小さくなる背中。そんな臨也の背に手を回す事など出来ず、静雄はただ立ち尽くした。

「俺が好きなのはシズちゃんなのに、」

目を見開く。ヒドイね。と続ける臨也はすんと鼻をすする。確かに感じる温もりは臨也の物できっと夢ではないのだろう。臨也は静雄が冗談だとしても笑えない一線を越えようとした事をわかって言っているのだろうか。

「冗談、言うな、俺は」

あの平和島静雄なんだぞ。
先に手を出した奴が言う台詞なのかなどと考える余裕なんて、静雄には無かった。声が震えていたのだ。気づけば鼻の奥がつんとしてきて、ついには視界が歪んだ。


「冗談を言えるほど、余裕なんて、ない…!」


ぎゅうとシャツを握られ、肩の辺りに冷たいものを感じた。涙だ。臨也の涙。あの折原臨也が泣いているのだ。そう考えると、静雄は無我夢中で臨也の背に腕を回し、抱き締め返した。


「俺も、手前が好きだ、」


ごめんな。ぽたりと机に雫が落ちて、何年かぶりに人の腕に抱かれて泣いた。






(俺はシズちゃんがすきで、)
(俺は臨也がすきだ。)




(20101028)

こっそりアンケートで頂いた「臨也がドタチンの事を好きだと思ってる静雄がヤっちゃう話」だったんですが裏要素が入りませんでした…!力不足や…!
ドタチンはきっと臨也が静雄の事が好きなのを知ってました。

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