短編小説ログ | ナノ


※高校生静雄×小学生臨也





ガキを引き取った。

ただの気まぐれだった。
……いや、周りから無理だ無理だと言われヤケになっていただけかもしれない。
それでも、俺は俺の意思でコイツを引き取った。

折原臨也。不思議な名前だと思った。変な名前。読めない名前。
いざや、と小さく呼ぶがこのガキはこちらをチラリとも見やしない。

まあ、愛想が無い事は知っていた。
俺は床にどっかり座って息をつく。
臨也はただぽつんと立ちすくみ、キョロキョロと視線だけを泳がした。
臨也、と再度声をかけるとビクンと大きく肩を震わせた。

「別に怒ってねえよ、そんなにビビんな」

こっちにこいと手招きして、小さな頭をガシガシと掻いてやる。
小さくうわ、と声が盛れて今日初めて臨也の声を聞いた。
大人しくしていた臨也だったが、少し経って俺の手を払いのけ赤い大きい目で、俺を睨んだ。

「いい人ぶるな」

その声は小学生が出すような無邪気な声からかけ離れた、憎しみが込められた声だった。


折原臨也。
コイツの事は、それなりに知っている。
引き取る前にコソコソ、いやあれはグチグチといった方が妥当かもしれない。叔母さん達に色々聞かされていた。

あの子は愛想がない。可愛いげない。あの子は人を見下したような目をするのよ。とても嫌な目をするの。

それこそ本当に色々聞かされた。コイツの両親はコイツが小さい頃に死に、そして今まで何件もの家をたらい回しにされ、友達も出来ず、たくさんの場所を転々としているのだと。
俺が引き取ると言った時、叔母さんの顔は複雑だった。高校生には無理だともっともな事を言われた後、お金は、そう言われ虫酸が走った。
金なんてどうとでもしてやる。バイトなりなんなりして作る事は今までもやってきた事なんだ。援助なんて望んでねえ。

結局汚い大人達はコイツ自身を想っての行動なんて何一つしてやれてねえ。
コイツは一人じゃなにもできねえガキなのに。
力も無ければ金だってない。

すがる大人さえ、居なかった。

行く家行く家でのけ者にされたコイツは、どんなツラい日々を送ったのだろうか。それはきっと俺の想像を絶する。
そんな現状が、こんなガキにあんな、憎しみなんてものを教えてしまったんだ。

「平和島、静雄だ。手前は今日から俺とここに住む。もともと独り暮らし用の家だから狭いかもしんねえが、まあ、手前小せえから大丈夫だよな」

できるだけ優しく俺は言うと臨也はグルリと周りを見渡した。
何も言わずに臨也はその場にぺたりと座る。
ただ、それだけだった。
嫌だとも言わず、なぜかとも聞かず、ただ今の現状を受け入れたようだった。

「何も聞かねえのか?」
「……きいても、何もかわらないからいいよ、べつに」

小学生とは思えない口振りに何も言えなくなる。
ああ、コイツはこんなに歪んでしまってる。

「おりはら、いざや」

臨也が独り言のように自己紹介をして、俺とコイツとの共同生活が始まった。


***


「ただいま」

今までなかった、おかえりと返される日々が続いた。
初めは違和感がぬぐえなかったが、臨也は俺が帰ってくる度にいちいち玄関えペタペタと出迎えにくる。

「ああ、ただいま」
「シズちゃん」

ある日を境に臨也は俺をシズちゃんと呼び始めた。
初めは声をかけるだけでびくついて仕方なかった臨也だったが、最近は目を見て話せるレベルまで慣れてきていた。
信頼、されてきたと思ってもいいんだろうか。
俺は玄関に腰をつき、ローファーに手をかける。

「なんだ?」
「まだお昼なのに、なんで帰ってくるのさ」
「昼で学校が終わる手前に言われたくねえよ」

小学校は給食を食べてすぐ下校らしい。
羨ましい限りだ、こちらは7限までびっちり授業だというのに。

……今日、帰りが早いのは、早退してきたからだった。
帰れと担任から厳しく言い渡された。
もちろん、俺がキレて喧嘩をしたせいで。自主早退という形で今日は片付いた。

喧嘩なんて日常茶飯事だった。だが今回は。今回はやりすぎた。
怪我をさせた。軽いか重いかの判断は俺にはできない。血が出ていたのは確かだ。それを見て、俺は我にかえって、そして――…

「くそっ……!」

俺が小さく呟くと臨也はビクリと肩を揺らし俯いた。

臨也の姿にはっとなって、手前じゃねえよ、勘違いすんな。
そう言って笑えば、臨也は安心したように微笑み返してくれる。

「―――…、」

臨也に声をかけようとした時、脳裏に過った、恐怖に染まる、臨也の瞳。

ああ、また俺は壊しちまうのか。


「シズちゃん、痛いの?」

ふ、と頬に触れる臨也の手は俺のなんかより遥かに小さくて。
今まで聞いた事がない臨也のあどけない声に、涙が出そうに、なった。

俺は異常な力を持っていて、簡単に人を傷つけて、人は俺を拒絶した。
それでも、コイツは

「シズちゃんどうしたの?」

大きな赤い目は、しっかりと俺を射止めている。俺を、見てくれている。

「臨也……!」

臨也の小さな体を壊さないように、でも力一杯抱き締めた。

「痛いよ、シズちゃんっ」

ぐぐもった声で訴える臨也の声は、どこか楽しそうに聞こえて、ああ、俺は必要とされてるんだ、と胸が苦しくなった。
こんな感情を俺は知らない。

臨也もぽんぽんと俺の背中を叩いては笑った。

「どうしたのーシズちゃんっ」

初めは同情から始まったこの関係も、いつしか俺が臨也に助けられていたんだ。
家に帰ればおかえり、と迎えてくれる存在。
俺を見る、綺麗な眼差し。
コイツはこんなにも変わった。同時に俺も、変われたんだ。
助けて欲しかったのは、俺?


「シズちゃん泣いてるの?」
「泣いてねえよバカ」
「バカって言う方がバカなんだよしってる?」
「知ってるよバカ、」
「またバカって言ったー!」

きゃあきゃあと腕の中で騒ぐ臨也の頭を少し雑にガシガシ掻いてやると臨也は少し唸って、そして、笑った。



そこに永遠があるならば。
(ずっとずっとこのままで、)


いい人ぶるな、と俺を睨んだ目は、もうそこには無かった。





(20100529)
企画「不思議の国の少年アリス」提出
高校生静雄×小学生臨也でした!

全くもって設定が生かせていないのはデフォです^^←←←


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