短編小説ログ | ナノ



(しず←いざ)







今日もまた、夢を、見た。
追いかけっこも疲れて、路地に逃げ込んでもコツン、と足音が響いた。
あーあ、今日はしつこいなあ。
上がった息を少し整えて足音に向き合うと、そこにはひん曲がった標識を片手にした静雄が一息タバコを吐き立っていた。
ギロリとこちらを睨む視線が臨也の緊張感を増す。


「あのね、シズちゃん」
「んだ?遺言か?」
「ははっ違うよ……あのね、俺ね、夢を…見るんだ」


そう言った臨也を細い目でみる静雄の視線を無視して言葉を紡ぐ。

夢を、みる。
毎日、毎日、同じ、夢を。


「あれは高校かなあ……俺とシズちゃんは同じクラスで、良く行動を共にするだ」
「はっ、有り得ねえな」
「うん。その通りだ。……お昼は屋上でドタチンと新羅も呼んで4人で食べる」
「胸くそ悪い夢だな臨也くんよぉ」
「放課後になって一緒に下校とかすんの。面白いだろ?」
「ついに手前の頭がヤられたって事なら笑ってやるよ」
「シズちゃんは俺の家まで送ってくれて、じゃあなって言う。それで、」


ガシャアンと轟音が路地に響く。
静雄が標識を壁に叩きつけていた。
額には血管が浮かび上がり、


「手前の気持ち悪い話なんざ聞きたくねえんだよ」


一蹴、した。

臨也はにやりと笑い、緩んだ口元から絶えず笑い声が盛れた。


「あははははっ!!そうだよね!俺も同意見さ!俺とシズちゃんがあんなにも仲良しこよしで本当に気持ちが悪くて困ってるんだよ。眠りは浅くなるわで本当に良い迷惑。なに?新手の嫌がらせか何かな?」

「そりゃあ御愁傷様だなあそのまま死ねよ」


静雄はタバコを靴で潰し火を消すと、標識を担ぎ直し臨也との距離を縮めてくる。
ただ普通に歩いてくるそれだけの仕草だが、臨也に緊張が走る。
……さあ、どうやって逃げようか。



『じゃあな、臨也』
『うん。また明日』


『……あ、シズちゃん!』
『……?』



夢はいつも同じところで目が覚める。
何度同じ夢を見ようとも、あの先を俺は見る事ができない。





息をすった一瞬に、静雄は一歩を踏み出した。
同時に臨也も地面を蹴り、静雄に向かって跳躍する。
飛んでくる標識を交わして、身を捩り勢いをつけナイフを静雄の体に突き刺した。
いつもより手応えがあった気がする。
視界の端に映る握られた拳に、すぐさまナイフから手を離し後退する。
だが静雄はその一瞬の隙を見逃さなかった。

「……っぐあ!」

振り落とされたのは拳ではなく、腹には蹴りがめりこんだ。
跪くような事は無かったが、過った吐き気を堪えて歯をくいしばる。

あーもう、容赦ないなあ。

ゲホゲホと咳き込みながら体勢を立て直す。
あの、夢が、本当だったならば。
こんな殺し合いなんて、行われないんだろうか。

「ゲホ、……本当に死んで欲しいなあシズちゃん」

こんな事だって言わずにすんだのかもしれない。



『またシズちゃん買い弁なの?』
『栄養考えなよ静雄』
『いんだよ別に腹が膨れりゃ』
『あんまり良くないと思うぞ、静雄』
『そーそ!まだまだ成長期なシズちゃんはちゃんと栄養バランス考えなよ!』


あんな風に、青空の下で
(一度くらい食べたかったなあ、なん、て)



『? なんだよ臨也』
『あ、あのさ、シズちゃん……』


俺はシズちゃんの顔色を伺って、伺って、伺って。
息をすって、シズちゃんの目を見て。

言うんだ。





あぁ、目が、覚める。

『大好き!』



目を開けたその先に


(望んだ世界は存在しない)




(20100427)

本当はシズちゃんと仲良くなりたかった臨也くん。
そんな世界を夢みちゃう、的な(^O^)
めもを更新しようと打ってたら止まらなくなった……

相変わらずシリアスがすきだ。

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