音を失ったならば、 | ナノ








雨の中を走った。目指すは新宿。

目指すは、折原臨也のマンション。







ドアノブに手をかけた瞬間、す、と手を離したじろいでしまう。
―――……躊躇った。

俺の、せいで。静雄は顔をしかめた。


「くそっ………」


後悔の念と苛立ちとでグチャグチャな頭で何を考えようというのか。静雄はイライラした手つきでインターフォンを押す。


当たり前のように反応はない。


臨也は平和島静雄に会いたくない。そんな考えが過り拳を握りしめた。勢いにまかせガッとドアノブを回すと、


「………開いてやがる」


鍵などかかっていなかった。




を失ったならば、





(居ねえのか……?)


中から音などは何も聞こえず、臨也は居ないのかと部屋の中まで歩を進める。途中、臨也のびしょ濡れのファー付きコートが無造作に投げ捨てられているのを発見し、臨也が居るのを確信した。だが、リビングには誰も居らず、テレビも点いてはいない。


「臨也?」


手当たり次第部屋を見ようと、ある部屋のドアに手をかけ、少し開ける。中はベッド―…寝室のようだった。ベッドに視線を流すと人の足を発見し、すぐさま臨也だと確信しドアを全開する。
ベッドに駆け寄るが、臨也は目覚めない。


「――…?」


眠りが浅い臨也が侵入してきた静雄に気が付かない訳がない。静雄は怪しむようにうつ伏せになっている臨也の顔を覗きこんだ。
すると、臨也は苦しそうに息を吐いていて、顔は赤く――…


「馬鹿野郎」


おでこに手を添えると、案の定熱をもっていた。
人の事は言えないが、臨也はこの雨の中を走ったのだろう。傘も無しに。さっき見たコートの有り様や、髪や服が濡れている事から察するに帰ってきてベッドに直行コースだったのだろう。
多分、そんな風になってしまったのも己のせいだ、と静雄はまた眉を潜めた。


「悪ぃ、臨也」


あの名を呼ばれた感覚は嘘では無かったのだ。額にへばりつく前髪を払いのけ、静雄はリビングへと戻る。
こんな濡れたままの姿では、良くなる訳がない。タオルと氷を持ってこなくては。

自分は熱など出した事は無いし、弟である幽も表情がない奴だったから知らぬ間に熱を出し、知らぬ間に完治していた。
だが何をすればいいのかぐらいはわかるつもりだ。

今の臨也にしてやれる事はこのぐらいしかないのだと静雄は舌打ちをした。


濡れた髪を軽く拭いてやる。熱のせいか臨也は苦しそうに何度も息を吐く。声は、ない。
改めて自分のした罪を実感し罪悪感と後悔の渦が押し寄せる。

そんな時だった。
臨也はぱくぱくと口を動かしている。耳をすませようとも、声は聞こえない。


(……なんだ?)


口のゆるやかな動きを見つめる。



『      』

「―――…っ、」


静雄は目を見開いた。
鼻の奥がツンとして、咄嗟に臨也の手を握った。静雄の勘違いで無ければ、臨也は確かにこう口にした。


『シズちゃん』と―――…




もう知らないとは言えず
(俺はこんなにも愛されていた)





(20100408)

シリアス展開まっしぐら!

20110425加筆修正

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