音を失ったならば、 | ナノ






雨が降るなんて、知らなかった。
臨也は走りながら強く降り出した雨にすら切なさを感じならただ我武者羅に雨の中を駆けた。
濡れて顔にへばりつく髪の毛。濡れたコートはもう意味をなさずに色が濃くなっている。ずぶ濡れ姿のまま駅の改札を入り、変な目で見られようと関係なく新宿方面の電車に乗り込んだ。

ただひたすらに、池袋から逃げ出したかったのだ。

心臓がバクバクと鼓動をうつ。こんなにも走ったのは高校以来かもしれない。息を整えるように何度も何度も、酸素を肺に送り込む。


(…さむい、)


心臓は破裂しそうな程なのに、雨のせいか指先が冷えてくる。寒さで肩が震えるのを体をぎゅっと抱き締める事によって紛らわせた。


(…はやく、帰りたい)


はやく、今日なんて終わればいいのに。そうしたら、全部うそでしたって。全部全部、俺の夢物語だったんだって、言ってくれるでしょ?


―――…シズちゃん。




を失ったならば、





新宿に着いてからも、雨の中、マンションを目指して走り続けた。マンションに着いて、濡れたコートを脱ぎ捨ててそのままベッドに倒れ込む。
服が濡れていようが髪が濡れていようがそんな事はどうでもいい。体がダルくて、何も考えたくなくて、ただ眠りの中に落ちてしまいたかった。


(死んじゃえばいいのに)


誰が?俺が?シズちゃんが?
相変わらず声は出ず、シーツに顔を埋めて泣き叫ぶ事もできない。


(泣き、叫ぶ…?)


臨也は自分が今ふと思った事に、目を見開いた。
俺は今、泣き叫びたいのか。

自分がこうなっているのは静雄のせい。
だが、今までの折原臨也は平和島静雄にこれ以上、いや、比較にならない事を仕向けてきたはずだ。
……何を被害者ぶっているのだろう。


(今までのしっぺ返し……か)


今まで。
静雄が臨也を殺さない事は、優しさなのだと思った。本当の平和島静雄の力ならば、一発殴れば相手の息の根を止めるぐらい容易なはずなのだから。
だが静雄は幾度となく喧嘩を売られて他人を殴っても、人を殺めた事はなかった。無意識のうちに力をセーブしていたのだろう。それは折原臨也が相手でも。
沸点は低かったかもしれない。だが、それでも今まで臨也が生きているのは静雄が手加減している他ならない。


(自惚れていたんだ、)


折原臨也は平和島静雄の“特別”になれている。臨也はそう思っていた。だが、今回の事でその考えは塗り替えられる。


(自惚れてた、自惚れてたよね…! バカみたいだ! 惚れた方の負けってやつ? ハハッ! 惨めなだけだろ………っ!)


勝手に相手を好きになり、勝手に裏切られた気になっている。
なんて惨めなんだろう。


俺は人間を愛してる。人間は俺を愛したりしない。
そんな事、知っていた。

平和島静雄も人間だったという事か。そんな事、…知りたくなかった。


「…………っ、……」


出ない声を必死に隠して、臨也は自分の髪で濡れた枕を、たくさんの涙でさらに濡らしていった。




「あい」をください。
(俺はずっとあいしてた)






(20100405)


うちの臨也さんは弱々しい…!
あーもう可哀想な感じですみませ…
次で静雄に反省させますので…!←

20110425加筆修正

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