音を失ったならば、 | ナノ






眉を寄せ難しい顔をする波江に臨也は喉を指差し、パクパクを口を開閉させる。しばらくは眉を寄せたままの波江は目を見開き、まさか、と声を洩らした。


「声…でないの?本当に?」


波江はさっきとはうって変わって疑いの眼差しを向ける。声を発する事ができない臨也は首を縦に振る事ぐらいしかできず、2度しっかりと頷き肩を竦めた。
不便だな、とため息を洩らしながら臨也は波江を一瞥すると、暫く波江は臨也を凝視し、ゆっくりと重い口を開いた。


「取り敢えず、コーヒーでも出すわ。話はそれからよ」



を失ったならば、





「思い当たる節は、ないのね?」


波江のいれた、多少の苦みを感じるコーヒーを飲みながら臨也はまた首を縦に振る。ダイニングテーブルについて、波江は足を組むと顎に指を絡め何かを考え始めた。思い当たる節は無い、と言った(といっても首を振っただけだ)が恨みなら買いすぎてわからないだけだ。だが昨日に何かされた記憶が臨也に無かったために頷いただけなのだ。
面倒な事になったなあ、と臨也は再度大袈裟に肩をすくめてやると、波江は苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。


「貴方、天才ね。喋ってもないのに相手を苛つかせる。…早く医者に見せたほうが良いわ。静かなのは違和感があるもの」


そう言い捨て、波江は自身で淹れたコーヒーを一口飲むとふ、と息をつく。棘のある言い方に隠れた小さな配慮に臨也はクスリと笑い、肘をつくと波江はギロリと臨也をにらみ付けた。笑ってんじゃないわよとピシャリと言い捨てられたが、臨也は緩む口元を隠しきれず小さく笑う。気に障ったのか波江が席を立とうとするのを制止し、さっと携帯を取り出す。
メール画面を出して、文字を打ち始める臨也はどこかの首無しライダーのようだった。


『今から医者…と言っても闇だけど…電話、するから相手に説明してくれるかい?』


とゆっくりだが確実に打ち込み画面を波江に差し出す。
自分があの都市伝説と同じ方法で意思の疎通をするはめになるとは思わなかった、と臨也は自嘲しながら波江の表情を窺うと波江は仕方ないわね、とまた席についた。
―――…不便だ。
声が出ないということはこんなにもストレスが溜まるものなのか、と臨也は内心ため息をついて闇医者である新羅の電話番号を引き始める。波江の了承に微笑み返して、臨也は新羅の愛の巣窟とやらの電話番号に合わせ通話ボタンを押した。


「……、」
『はい、もしもし?』


携帯からはっきりと聞こえる新羅の声を確認し、軽く携帯を叩けば新羅の不思議そうな声が洩れた。番号は臨也だけど…臨也だよね? 嫌がらせは止めてよね、という酷い言葉を聞き流しながら波江に携帯を渡す。


「闇医者さんかしら?臨也の、」
『え、まさか声が出なくなった…とか?』


―――…なーんで新羅のやつわかってるのかなあ…
臨也は聞こえてきた新羅の言葉に沸いてくる苛立ちを机を指でトントンと叩くことで露にする。波江がちらりと臨也を盗み見て、ただただ不機嫌そうな顔にため息をひとつ。


「来て、くださるかしら?闇医者さん」
『…わかった。すぐ向かうよ。あー…1つだけ。ナイフの用意はしないで欲しいかな』



たとえ、
辛かったとしても

(大変な事になったもんだね)



(20100323)

なんか一枚噛んでる新羅。
新羅の闇医者って展開を作りやすい役職で大変助かります(笑)
にしても話が進まない…

20110130 加筆修正

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