音を失ったならば、 | ナノ







重たい瞼をゆっくりと開ければ見慣れた天井がそこにあった。シーツを巻くって、くあ、と欠伸をした瞬間、自らの異変に気がついたのだった。

(えーっと…?)

を失ったならば、



どうしてこうなったのか。
臨也はできる限りのことを思い出そうと頭をひねった。昨日はいつものように仕事で取引をしていた。池袋だった取引場で、大人しく新宿に帰ろうかと足を向けたとき、運悪く帰宅途中に静雄に出くわしたのだ。逃げてきた、という表現は御幣があるがナイフをちらつかせ追いかけっこの末、撒いた。

そうだ、と臨也はある事を思い出す。
昨日は今までとは違いあれから静雄が臨也の家を訪ねてきたのだ。

わざわざ殴りに来たのかのかと臨也が薄く笑うと、静雄は何も言わず茶を出せと命令し身勝手にソファに腰をついた。予想外の行動に呆けていた臨也だったが、想い人に邪険にされていない事が心底嬉しく、静雄のために甘い甘い紅茶をついだ。

(違う、そうじゃなくて…、)

確かにあの時は嬉しかったが、そうではない、と首を左右振る。問題は今、どうして‘こう‘なってしまったのかという事だ。

そう、なんで―――…



コンコンとドアをノックする音が聞こえて、臨也は一旦思考を止める。

「ちょっと。いい加減仕事をして欲しいのだけど。」

凛とした声の相手は家主の答えも聞かず入室して、鋭い視線を送った。波江は目にかかった前髪を掻き分けると、ベッドサイドにある小さな時計を指さした。指差された先を見ると、時計の長い針は11を指していた。

そんな時間まで寝ていたとは。
臨也は驚きに目を丸くし、大げさに肩を竦めてやる。すると波江は眉間にシワを寄せた。

「……何なの? なんだか変よ?……なんで、」

―…なんで喋らないのよ、


まだ笑っていられる
(声が出ないからに決まってるだろ?)



(20100322)

突然連載とか始めてみる\(^o^)/
声がでなくなってしまった臨也さんの話。
始めは静←臨です。

20110128 加筆修正

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