音を失ったならば、 | ナノ







名前を呼ばれて、よくわかんねえ感情が溢れてきて、手前を抱き締めてた。

あんなに嫌いだったノミ蟲なのに、……意味、わかんねえ。
わかんねえけど、これが「愛しい」って感情なら、俺はこんなにも手前が好きだ。
勘違いな、訳が、ねえ。


「好きなんだよ臨也」




を失ったならば、





「俺はシズちゃんなんて好きじゃない」


はっきりとした言葉は部屋に響いて、消えた。静雄はゆっくりと頭を上げ、臨也を見る。臨也は窓に手をあて、下を歩く人々を見ていた。表情はわからない。太陽は沈みかけ、臨也の影が静雄にかかる。臨也の背中はどこか悲しそうで、辛そう、で。
それは決して、夕日のせいではないのだ。


(なぁ、臨也)
「手前、声が震えてるって気づいてるか」
(なぁ、臨也)
「俺がどんだけ手前が好きか、わかってんのか」

(なあ、)
「勘違いって、本当にそう思うのかよ」


少し、怒りが混じった、声。
静雄の声に臨也は少し肩を震わせ、それでも振り向きはしなかった。しかし、臨也は次第とふるふる絶え間なく肩を震わせ始め、拳を握った。


「何、それ。何それ、なに、それっ…!そんなの信じられるわけないだろ?!その場のテンションで作られた感情なんかに、流されたくない…!俺は、俺はシズちゃんが、シズ…ちゃんが」


嗚咽を繰り返し、尻すぼみになる声。


「なんで…こんなに好きなの……」


その言葉は臨也自身に向けられた、問いかけだった。薬物を盛るような男を、自分をノミ蟲と罵る男をどうして好きになったのか。
そんな事、今まで何度考えただろうか。この場を切り抜ければ、望んだ日常が帰ってくるはずだったのに、それさえもダメにしてまで何を言っている?


(救いようがない、)


それほどまでに静雄が好きだったのだと自覚せざる終えなかった。
臨也は諦めたように肩を下げ、夕日に向かって呟いた。


「そうだね、好きだよ、大好き、ずっとずっと前から、ずっとずっと好きだった、ねぇシズ――……っ!」


後ろから突然衝撃を受けて、臨也は足元がふらつく。同時にくんっと後ろに引かれて、気づくと臨也の顔の横に金髪があった。首もとに頭を埋める静雄は、臨也を自分のできる最大限の優しい力で抱き締める。
前に回された腕はがっちりと臨也を包みこんでいて。


「言えるじゃねえかよバカ野郎」


耳元のその声は、今まで聞いた事がない声質だった。暖かみがあって、全てを包みこむような。


「臨也、好きだ」


「…………耳もとは、反則だよ。ばか、なんじゃ、」


ぼろぼろと臨也は絶え間なく涙を溢し、それでも回された腕にしっかりとしがみついた。


「本当に、好きなの」
「好きだな」
「好きってなんだかわかって言ってる?シズちゃんに愛がわかる?」
「わかったんだよ、手前で」
「ほんとう、に」
「しつこいぞ」
「……………」
「言わなきゃダメなら何度だって言ってやる、それで手前が信じてくれないなら態度で示す。そんなん全く苦じゃねえよ、手前が信じてくれるまで、俺はなんでもやってやる。………俺は、そんぐらいしねえといけないぐらい信頼を失ったんだよな」


違うのだ、臨也は頭の中で必死に声を上げた。
静雄の優しさに漬け込んで、知らず知らずの内に静雄を操ってしまったのではないか。こうなる様に知らず知らずの内に仕組んでいたのではないか。


(そうだ。俺は今までそうやって人の心を読んで、操ってきた)


「むしろ、俺を信じていいの?全部嘘かもよ、シズちゃんを信頼させて殺す機会を伺ってるのかも……」
「軽々と殺されてたまるかよ、いらねえ心配だな」
「心配じゃなくて、忠告だよ」
「………なあ、臨也」



ふわりと風が流れた、気がした。



「いい加減、素直になれよ」



そのセリフが合図となって。
想いが零れ落ちる。


「どう、しよう……ねえ、シズちゃん。シズ、ちゃん。俺は、シズちゃんを好きで居ていいの、」
「ああ」
「シズちゃん、俺、好きじゃないとか言ったよ、」
「嘘なんだろ?嫌いだとは言われてねえし」




「何それ、シズちゃんバカなの?あぁ、もう……すき、だよ、大好きっ…!」


最後に零れ落ちた大きな雫に、さようなら

想いは通じました。




たどり着いた結論
(すき)(好き)((愛してる))



(20100519)

次で終わりです…!
20110425加筆修正

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -