音を失ったならば、 | ナノ







じゃあ、する事はひとつだね。
新羅はようやくニコリと優しく笑って、小さな小瓶を差し出した。


『送るよ、静雄』


新羅のマンションから出るとセルティがバイクを出して待っていてくれた。


「ありがとな、」


先ほどまでの会話も、今までの事も知っていてもなお気を配ってくれるこのデュラハンはやはり心優しい妖精だ。静雄はセルティの好意に甘え、渡されたヘルメットを受け取った。


『礼を言われるような事じゃない』


セルティはPDAに打ち込み終わると、バイクを走らせた。



を失ったならば、





「なあセルティ」


バイクを走らせるセルティに後ろから声をかける。なんだ?と言わんばかりに肩が動き、静雄は続けた。


「俺は、臨也が大嫌いだった。面倒臭ぇ事ばかり並べたてるアイツが大嫌いだった。池袋で会えばアイツを殺そうとしたし、アイツだって俺を何度も殺そうとした」


静雄と臨也は天敵だと言われ、2人に会ったら直ぐ様逃げろ、身のためだ。と言われるような仲だった。決して仲が良いとは言えない。むしろ最悪の仲。

そんな静雄と臨也が今は同じ部屋に居て、静雄が臨也の熱の看病をしたと聞いたら池袋に居る人間達はどう思うだろうか。冗談だろ、というより、そんな話を流した奴の命を惜しむ人間の方が多いかもしれない。


「俺がアイツを好きになるのは、おかしいか」


静雄の真剣な声色にセルティは少し考え、PDAを出すが、また少し考えバイクを小さな公園へと路線を変えた。


「セルティ?」


公園の入り口でバイクを止め、セルティはPDAを取って文字を打ち込んだ。


『静雄は強い。そりゃあもう清々しいぐらいに!』
「……?」


どうゆう意味だろうか。
静雄は次々と打ち込まれる文字を目で追っていく。


『その力は人を傷つけるのだって容易にできる。今まで静雄が人を殺めていないのは、力をセーブしていたおかげだろう?』
「無意識に、だろうけどな」
『臨也にだって、力をセーブしていた。無意識に。それはやはり……何か意味があると、私は思う』


静雄は打ち込まれた文字を読み終わると、少し言葉に詰まったが決心したように口を開いた。


「ただ俺は怖かっただけかもしれねえ。人殺しになんざなりたくねえってただ怖がっていたのかも、」
『それでも臨也は言っていた!“シズちゃんは優しいから、俺を殺せないんだよ”って!……静雄、何を怖がっているんだ?』


何を怖がっている?

投げ掛けられた疑問がわからず静雄は一瞬呆けたが、脳裏に臨也の姿が写りすぐに答えは見つかった。

大嫌い。
そう言われるのを。
気持ち悪い、と一蹴されるのを静雄は恐怖していた。


(あれ…?)


だが、思い返せば思い返すほどに、思い出せない。最後に“大嫌い”と言われたのはいつだっただろう。嫌いだと言われたのは?




『いーざーやーくーん…!』
『やあシズちゃん。今日も公共物破壊?そろそろやめたら?』


『あれっおかしいな、シズちゃんは東口で働いてるって聞いたのに』
『臨也くんよお…池袋に来んなっつったよな?あぁ?!』





「嘘だろ……?」


思い出せないほどに、昔だというのか。


『静雄?どうかしたのか?』


絶句している静雄を心配したのか、セルティはPDAを差し出しながらこちらの顔色を伺うかのように覗き込んできた。大丈夫だ、と静雄は答え、そっと息を飲んだ。


「マンションまで、急いで貰っていいか」
『………もちろんだ』


静雄の真剣な目を見て何かを汲み取ったのか、セルティは再度バイクを走らせた。





『お前なら大丈夫だよ、なんてありきたりな事しか言えそうにない』

臨也のマンションの前に着いて、セルティはまたPDAを取り出して申し訳なさそうに差し出した。打ち込まれた文字に静雄は軽く笑って、ありがとなと答えるとセルティはまた何かを打ち込み始めた。


『私は静雄の幸せを願ってる』


そう言ってセルティはバイクを轟かせ新羅の元へと帰って行った。


「ありがとな、セルティ」


もう居ない優しい友人へ感謝をし、静雄はマンションへと入って行った。




朽ちぬ想いを胸に
(覚悟は、決まった)





(20100505)

セルティと静雄の回!

20110425加筆修正

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