あの子の傍にいたいと切望

「刑部は身体が弱いんだから!あまり無体をするんじゃない!」
「私とてそのくらい解っている!無理強いなどしていない!」
「本当かぁ…?刑部が我慢しているのは大丈夫とは言わないぞ?」
「そこまで疑うのなら見せてやる!」

一体この二人は何の話をしているのか、頭痛が痛いと言う言葉はきっとこんな時に使うのであろう。
額に手を宛てた吉継は無言を貫きたかったがしかしそのままでは最悪の予想が現実のものになってしまうと、兎も角最後の一言だけでも撤回出来ぬかと咽喉を震わせた。
「…一応聞くが、ぬしらは一体何の話をしておるのよ。」

すると二人は同時に吉継の方へと振り返り、獣の仔のようにころころと膝元へ走り寄るとそれぞれ己の主張を口にする。
「閨で私が刑部に狼藉を働いていると言うのだ!」
「だって三成だぞ!?刑部だって実は辛いと思っている事がある筈だ!」
毎朝あんなになって、と更に重ねる家康に、今まで彼に見られたであろうあれこれの状態を思いだし、寝起きの悪い己と恋人の身体を初めて恨んだ。

確かに全て終えた後、諸々の処理をする体力も無くなって転がった翌日は、彼と官兵衛の焼くお節介と言う後始末を甘んじて……正直便利に思いながら受けている。
二人に爛れた肌を見せる事に今さら戸惑いも無い、が。やはり最中を見せると言う事になれば話は別だ。何故そんなものを見せなければならない、声を聞くのも聞かせるのも恋人ただ一人で充分である。

「見せて一体どうなる。何が辛く何が悦いかなど、ぬしに判るのか?」
緩く頭を振りながらそう訊ねた。
人の閨事を見せろなどと言う男に羞恥心を説明しても伝わりはするまい。むしろ何故三成は良くて自分は駄目なのかなどと駄々をこねそうであったので、違う方面から説得を試みた。
しかし家康はそんな吉継の策を自信満々にはね除ける。
「確かに受け手に回った事は無いが、百人斬りの絆は飾りではないぞ!」



「待ちやれ。」
急転直下、冷たい声が部屋に響くと同時に気温まで下がったような気がした。
「われはそのような子に育てた覚えは無い!!」

家康が遠い所に行ってしまったとおいおい嘆く吉継に、本人だけでなく三成までもが慌てて期限取りに向かったのだが、残念ながら彼がそのやんちゃを渋々赦して口を利いたのはそれから三日後のことであった。