乱世の梟雄は消えてなどはいなかった。

次は何を頂こうかと呟きながら宝刀をくるくると玩ぶ様は欲望の権化と呼ぶに相応しく、ゆったりとした足取りは強者の余裕を感じさせる。
やがて辿り着いたその地では、今まさに国の命運が決まろうとしていた。


関ヶ原開幕戦


何がどうしてこうなった。しかしその問いに応えてくれそうな者は一人として見当たらない。
空爆落星は空を舞い……舞い踊る。
どうして戦国最強から七色の煙が出ているのかとか、どうして西軍副将が花火を持って空を彩っているのかとか、気にしたら負けだと言うのなら己の負けで一向に構わない。
蒼紅と言う名の馬イクVS武田式乗馬隊が暴れる様は、どちらも読んで字の如く珍走団と言う名に相応しく、訳の解らぬ宗教の名を掲げながらマスゲームをしているあれは確か中国の知将では無かったのだろうか。一体いつから恥将へと名を変えた。
「貴様等!その程度の愛でザビー教を名乗るつもりか!」
そして手が飛び足が飛び、ついでに兵士も飛び上がる。
何故彼らは殴られているのに良い笑顔なのだろう。
「有難う御座います!!!」
よし解った、卿にはを苦痛を送り快楽を頂……やっぱり止めよう。貰ってはいけない気がする。

「宵闇の羽のお方、素敵ですー!!」
「謙信様ぁぁぁぁぁ!!!」
「孫市抱いてぇぇ!!!」
続いて右手をご覧下さい。此処は何処の歌舞伎会場なのかとか、最後が明らかに男の声だとか、そんな事よりも彼等の視線の先に居る赤青黒があれこれと衣装を変えて舞台の上をくるくると歩くそれは一体何の儀式なのか。


豊臣秀吉を討った徳川家康と、豊臣の忠臣であった凶王三成が日ノ本の覇権を奪い合う欲望と野望の渦巻く争いであると聞いたのに、竜の右目と武田の草が仲良くせっせせっせと料理の準備をしているのは何故なのだろう。卿達は敵同士だと思っていたのだがあれは私の見込み違いだったのか。


暫くそうして脳内で問答を繰り返した結果、彼は突然、ふぅ、と息を吐いて立ち止まった。


「ま、松永様…?」
困惑しきった部下の呼び掛けに、唇の端だけを歪めて返事をする。

「何、ちょっと春日部に帰ろうかと思ってね。妻と二人の子供と犬が待っている。」
「松永様!それは作品が違います!!!」
赤い屋根の一軒家が懐かしい。
小さくぽつりと呟いて、目頭を押さえた彼はそっと踵を返したのだった。