ほんとうに、やさしい

不機嫌そうに舌打ちをした男を宥めるように、吉継は「これでも食いやれ。」と棒つき飴を差し出した。
子供ではないのだからと思いつつも、つい毒気を抜かれた佐助はそれを素直に受け取り、合成着色料で彩られた赤を口内に収める。

「前から思ってたけどさ、よく平気だよね。」
前、が前世を示すと言う事は解ったが、平気とは一体なんの事であろうかと首を傾げる。佐助の苛立ちの原因は相変わらずの幸村と政宗の悶着で、それを自身に言うという事はつまり三成が未だに家康と顔を会わせるたび食って掛かる件についての文句なのであろうが、吉継としては逆に何故佐助がそれに拘るのかが解らなかった。
「それこそ前から、であろ。今更よな。」
「そうじゃなくて……大谷の旦那ってさ、人を嫌いになる事とか無いの?」
思いもよらぬ問い掛けに、吉継は今度こそ首を傾げる。しかし佐助は次第に語気を強めて尚問い質す。
「長曽我部の旦那に企みがバレた時だって笑ってたし、徳川の旦那に何か聞きに行ったりもしてたよね?…俺様は正直、今でも独眼竜と徳川は顔も見たくない位嫌いなんだけど。」
割り切れぬが甘さと言うならばそれこそ、平和な世であるからと開き直ってやる。今は感情を殺さねばならぬ忍ではない。好きは好き嫌いは嫌い、盛大に顔にだしてやろうではないか。

「魚がわれを討ったのは道理であろ。それに徳川の事にしても、少なくとも不思議では無かった。」
三成がああまで嘆くのは計算外であったが、と笑う声には苦笑は見えども怒りや不満は見えず、白い瞳は凪いでいる。
しかしその言葉を聞いても、佐助は解らなかった。吉継が誰も嫌わずにいられる理由など。

それはアンタが優しい人だよと、そう言う代わりに、舌の上に広がる甘ったるい塊を噛み砕いて飴ごと飲み込んだ。