畜生奇想天外

「狐に捕まっておった小鳥を放っただけよ。」
ゆるゆると首を振りながら、吉継が肝心な部分をぼやかして顛末を説明すると、それを聞いていた佐助と天海は色々と承知したようににやつくと小鳥ねぇと心の中だけで揶揄しておいた。

「しかし、狐、狐ですか。」
天海が堪えきれなくなったようにクスクスと忍び笑いを漏らして吉継を上から下までじっとりと眺める。
「凶王様と刑部さんの方が余程、狐らしいのに。」
ね、と無邪気ささえ浮かべて首を傾げる天海に、しかし吉継の反応は芳しいものではなく、そのようなことは初めて言われたと純粋な疑問を浮かべて問い返した。
「われが狐と?」

「お二人とも『恨』と鳴く。」
表情を変えぬまま告げられた言葉に、佐助が成る程と小さく笑い、吉継は苦いものを噛んだような顔をする。
「大谷の旦那が狐で、俺様が猿なら、天海の旦那は何だろうね。」
「私は蛸が良いです。」
応えを期待していた訳ではない独り言のようなそれに、意外にも準備していたかの如くすんなりと返答が返り、何故かと尋ねる前に天海は一人自由に話し始めた。
「あれは母親の身体を食い破って産まれるそうですよ。」


「なれば、次はぬしが食い破られる母親か?」
吉継は呆れたように息を吐いた。少なくとも武将と名の付くの人間は総て誰かを食い、また自らも食われそうになりながらこの戦国を生き抜いているのだ。
…ただ、この場に居る三人に限っては、その身を食わせる相手を自ら決めているが。

そしてそんな日に限って、夕飯は蛸の煮付けであった。