なくしたはずの心が揺らぐ

心頭滅却すれば火もまた涼しなどと言うのは戯れ言である。涼しくなるよりも焼け焦げて死ぬ方が遥かに早い。中学校で習ったであろう、熱いやかんに触ると本能で手を引っ込めてしまうものなのだ。

「つまり我は悪くない。」
正座で向かい合わせと言うのは普段より見慣れた光景であったが、今回に限っては一つ。吉継が冷や汗を流し三成が眼光を強め迫り寄ると言う珍しい光景がベッドの上で繰り広げられていた。

そしてそんな二人の間に広がるのは、若い女の写真が掲載された雑誌である。
それは苦しいながらも言い逃れの出来そうなアイドルのグラビアですらなく、ぼかしと黒線の入った正真正銘のエロ本であった。しかも一冊や二冊ではなく、紐で縛らなければゴミに出せないであろう程度の量である。

「私を裏切るのか!!!」
「そう言うな、我も男よ。」
半泣きの三成に視線を泳がせながら対応しつつ、これはどうしたものかと吉継は頭を抱えた。
折角一仕事終えてすっきりした所なのに、これでは別の意味で賢者である。
いや、そもそも戦国の頃から三成が好きなだけで男が好きな訳では無かったのだ。可愛い女子は今も昔も大好きである。おっぱい大きければ尚良し。

明後日の方向に飛びかけていた思考を引き寄せたのはやはり三成で、目を真っ赤にして鼻を啜る姿は正しく残念なイケメンであった。
「ならばそんな余裕が無くなるくらい抱いてやる。貴様には私だけ居れば良い。」
吉継は苦笑すると、漸く手を伸ばして銀色の髪を撫でてやる。
きっと、明日からは眠れない。