関ヶ原召喚戦

東西両軍が対峙する関ヶ原。
今からはじまる戦いが最後のものになるであろうと、そこに居る皆が理解している。
緊迫し張り詰めた空気の中で妖しく蠢く影が二つ…。

「ああ…もうすぐ、もうすぐです!やっと貴方に会えます!!」
「ふふ、ふふ…」

小早川軍の怪僧、天海。そして織田残党の傀儡となっている市である。
ゆらりゆらりと陽炎のように揺らめく彼らは、恍惚の笑みを湛え戦場を静かに移動していった。
仮初に西軍へと属しているが杳として知れなかったその目的。
それも漸く明かされる時が来たよう。
闇を纏い、誰にも見咎められる事はない。
そうして彼らはある人物の元へ音もなく足を進めた。
辿り着いたそこで、不穏な気配を感じた相手がこちらに気が付く。



「!?な、何をしやる!?」

待ちに待った此度の戦。漸く切り捨てるべき仇敵の姿が視界に入り、爆発した怒りで走り出そうとしたその時。
聞こえた吉継の悲鳴に、三成ははっと足を止め振り返った。

「刑部どうした!?」

友の叫び声につられ、駆け戻った三成が見たものは。

「返しやれ!我の水晶玉ー!!」
「戦いに使ったり通路封鎖に使ったり本多殿封印に使ったり凶王回復に使ったり沢山持っているのですから七つくらい良いでしょう」
「貸してね蝶々さん」
「通路封鎖と本多封印、三成回復と我の武器は全部同じよ!」

一応同じ西軍である筈の天海と市が、吉継の水晶玉を強奪し颯爽と去っていく姿であった。

「貴様ら反逆かぁぁぁ!!」

何故だ、何故誰もが私を裏切る!!
そっくり返り絶叫する三成に、水晶玉なしではゆっくりとしか動けない輿に乗った吉継が「それはどうでも良いから取り戻しに行ってくれやれ!」と叫んだ。



「では、お市様…良いですね?」
「うん…」

人気のない荒原で二人は水晶玉の前に立ち、重々しく頷く。
そして息を吸い、高らかに呪文を唱えた。

『出でよ…そして願いを叶えたまえ!』

水晶玉…いや、龍玉を七つ揃えた彼らがそう声を上げた瞬間。
俄かに雷鳴轟き、突如として姿を現したもの。それは。

「さぁ願いを言え。どんな願いも一つだけ叶えてやろう」

緑の巨体を優雅にくねらせ、そう問いかけてくる一頭の神々しい龍であった。
ちなみに龍玉を伊達語に変換してはいけない。決して。

「会える、これで会えるのね…!」
「ええ、そうですよお市様」

歓喜に声を上擦らせた市へ、己もまた興奮を隠しきれない様子ながら天海が首肯する。
喘ぐような吐息で、夢見るような眼差しで二人は自分の願いを叶えてくれる龍へ見入る。うわ言のように吐き出した言葉。

『これでやっと』

「信長公に!」
「  さま!」
「うん?誰だって?」

「「…」」

声が重なって良く聞こえなかった。と言う龍の困った顔。
揃わない台詞に無言で見詰め合った二人はこの時漸く気が付いた。
あれ、こいつ、生き返らせたい相手が違う?と…。



「ふむ…で、それはどんな奴なのだ」

会いたいって事は多分生き返らせたら良いんだよな?でも名前だけ言われても分かんないしぃ。
大体そんな感じで首を傾げる神々しい龍に、相手に先を越されまいと二人は慌てて口々にかの人の特徴を告げる。

「  さま」
「強く王の威厳を放ち、」
「厳しいけど」
「日の本を掌握し、」
「 に優しくて」
「赤黒く、」
「光色で」
「渋い声で、」
「白い を持ってるの」
「目から光線が出ます!」

ぜいぜいと息を切らしどうだとばかりに龍を見た彼らの前で、龍は成程と得心した様子で口を開く。

「願いは叶えてやった。ではさらばだ」

神々しい龍略して神龍がそう告げたのは、丁度東西の将達がその場へ駆けつけてきた所だった。
天海と市を問い質そうにも、特徴絶叫合戦で呼吸のまだ整わない二人には喋る事もままならない。
空を飛ぶ本物の龍に目を剥く面々など気にも留めず消えた神龍。その代わりのように空から降り来るもの。
下敷きにされては敵わんと彼らが慌てて飛び退いたそこへ、轟音と共に大きな岩が降って来た。

「降って来たけど我の求めてた不幸とはなんか違う」

三成に手伝わせ水晶玉をこっそり回収しながら吉継は首を捻る。

「もしやお館様の仕業!?うぉやくゎたさぶぁぁぁ!!」

叫ぶ幸村の頭を叩きつつも佐助は辺りを見回し、政宗と小十郎は松永の爆撃関係ではあるまいなと周囲に目を光らせる。

「忠勝…じゃあないよな」
「!!」

家康は違う違うと慌てて首を振る最強輸送機が後ろに居る事を確認する。
と、その時。

『っ!!』

かっと目を潰す凄まじい光がその岩から放たれた。
やはり爆撃かと目を庇い伏せた彼らの鼓膜を震わせる岩の割れる音。
徐々に光も収まり、恐る恐る目を開けて見たそこに仁王立つ人影。

『!!!???』

その時関ヶ原に集っていた者達は後にこう語る。
あの時、はじめて本多と声が揃った、と…。



「久しいな、三成」
「久しぶりだね、吉継君」

耳朶を擽る美声が二つ。
見上げるほどに高い堂々とした体躯、赤と黒の甲冑。緩く上がった唇が彼の頼もしさを感じさせる。
その腕の中で微笑む麗人と合わせて、見慣れたその人達そのもの。

「ひ、秀吉様」
「賢者殿…?」

そこに立っていたのは、竹中半兵衛をお姫様抱っこした豊臣秀吉。
死んだ筈のその人達であった。



○○様、強く王の威厳を放ち、厳しく、日の本を掌握し、○○に優しく、赤黒く、光色で、渋い声で、白い○○を持っていて、目から光線が出る。
神龍は決して間違っていない。市がはっきり市に優しくて白い花を持っている長政様と言わなかったため半兵衛に優しい秀吉様が白い恰好の賢人をお姫様抱っこで登場してしまっただけの事である。
天海も、銃一丁刀一振り腰に下げて頭蓋を茶器をにし是非もなしが口癖の男とでも言えば良かったのに。後悔するも既に遅く今となっては夢のまた夢。
声もなくじったんばったんもんどり打ち歯噛みする二人を差し置き漁夫の利を得たのは呆然と立ち竦む三成であった。

「我が討たれた事でお前達には要らぬ苦労をかけてしまった」
「僕も戻って来たからにはもうそんな事はさせないよ。さぁ大阪に帰ろう」

どうやら復活した人物は性格が丸くなるようだ。詳しくは宴参照である。
目の前に立つ敬愛する二人に、三成は言葉もなく滝のような血涙を流し、口をぽかんと開け固まる怨敵の事は頭の片隅にも残ってない。
西軍大将から無視される形となった東軍大将、家康はどう反応したら良いのか本気で困っていたが、視線を合わせ微かに笑い頷いた秀吉にはっと目を瞠り、泣きそうな顔で深々と頭を下げた。

「いやわからなんだ。こういう結果になろうとは」

吉継のぼやきも尤もである。
そして不幸にも吉継はこの日以来龍玉を狙う市と天海に狙われる日々が続くのだった。
ちなみにその後二度ほど奪われたそれで彼らも無事会いたい人と再会できたらしい。
どの武将もお流れになってしまった天下分け目の戦に脱力しやる気をなくし、もうそれぞれ各領地治めてたら良いんじゃない?という方向に話は纏まって日の本は無事平和になったのであった。
こうして戦国時代は幕を下ろし、時代はBSR48時代へと移っていったのである。

『改訂版・日本の歴史』105ページ9章BSR48時代の起こり より抜粋