せめて、独りにはさせない

「刑部、貴様を独りにはさせない!」
ぐっと拳を握り締め、力強くそう述べる三成の瞳は決意と友情に溢れており、その尋常でない様子は初めて見る者を悉く圧倒させたであろう。
だがしかし、石田軍において彼の絶叫程度は日常であり、今更気にする者など誰も居なかった。


「そのような優しさなぞ要らぬわ!」
三成に声をかけられた吉継は、普段の飄々とした策士の姿からは想像も出来ない程に狼狽しており、涙目ままあろうことか乱暴に三成の手を払う。
そうして止めやれ来るでないと子供の癇癪のように喚き、室内に居るにも関わらず戦場で愛用している輿に乗るとあっという間に三成から距離を取った。

「私を置いて行くのか刑部!!」
「主は我慢を覚えやれ!!」


しかし吉継の反応も仕方の無い事なのだ。
凶王様の度重なる御無体により、彼の大事な場所は病とは別の理由で腫れて皮膚が弱くなっていたのだが、先日、遂に切れて出血した。
理由が理由だけに医者に診せるのも恥ずかしい。しかし病により基本的な体力やら回復力やらの無い彼にはそんな些細な傷すらも命取りで。

諦めて治療を受けようと決意した矢先、件の三成が私の責任なのだから私も一緒に着いていくのが道理だろうなどと言い出し、その結果が此度の騒動の発端である。
情けないやら恥ずかしいやらで、今度こそ吉継はその矜持も悟性も放り投げて泣き喚いた。

三成には羞恥心と言うものについて強く強く言い聞かせておこう。そう心に誓いながら。