夜は明けるか明けないか


床に入っても頭は冴えて考え事は止まらない。
浮かんだ思考が消えない内にと、何度も起き上がり文字にしていたところ、その仄かな灯りに気付いたらしく普段より幾分か忍んだような足音が廊下から響いて筆を置いた。

「刑部。」

目の下にべっとりと隈を張り付けたまま、未だ寝ていないのかと小言を言われ、見つかってしまったかと思うより先にそれはお互い様だと苦笑する。
ぬしが寝るのならば善処しようと手を振ったところ、有無を言わさず抱えられて、そのまま同じ蒲団に転がった。
強引な手段だが、二人が必ず寝る方法は吉継の慧眼を以てしてもこのくらいしか思い浮かばず、まだ途中だったが仕方ないと唇を歪めて蝋燭の火を吹き消す。

脂肪の少ない三成の身体は温かく、抱き締められていると冷たい手足にも熱が甦る。
馴染んだ人肌に包まれるといつの間にか睡魔が訪れて来て、遠いとばかり思っていた眠りは気が付けばすぐ真横に迫っていた。
目蓋を閉じて呼吸を整える。しかし今にも飛びそうな意識は、それでも現から逃れる事が出来ない。


ごろごろ。ごそごそ。
もぞもぞ。ころり。

あちらを向いたりこちらを向いたり、暫し動きが止まったかと思うと今度は身を屈めてそれも直ぐに真っ直ぐ身体が伸びた。
吉継としてはいい加減眠いのだが、残念ながら蒲団の中の相方はそうでは無いらしく、何度も何度も何度も身の置き場が無いように動き回っている。

「三成、寝やれ。」
幾ばくかの怒気を含めてぴしゃりと言ってやると動きが止まり、胸元に顔を埋めてすんすんと鼻を鳴らしじっと耐えるように身体を固くした。
やれやれこれで漸く眠れると一つ欠伸をして、今度こそ意識を手放す。


短時間の睡眠で満足してしまう三成が起き上がり、吉継がそれに叩き起こされてしまうのは、後二刻程後の事である。