春を一番から数える


大谷吉継は戦国時代こそ病にその身を蝕まれていたものの、現代に転生してからは健常そのものの肌と肉体を持って産まれており、今では三成もすっかりその姿の友に慣れていた。
しかし、今のこの姿はどうだろう。

「刑部?」
三成が思わず間抜けな声を出してしまったのも無理は無い。
彼の目の前に居る吉継の姿は、まるで前世に戻ったかのように、大きなマスクで鼻から下を多い、サングラスをかけ、長袖カットソーの上に薄手のコートまで纏うという重装備だったのだから。

まさかまた病が、いやしかしそれにしても重装備過ぎるともかくに医者へと慌てふためく三成を鼻で笑ったのは元就だ。
今世ではまだ一年足らずの付き合いでしか無い三成よりも前から、元就は吉継と出会っており、昔とは違う癖や嗜好を指摘される度に嫉妬でぎりりと唇を噛んでいたが、今回もどうやらそれに当てはまるらしい。

「単なる花粉症よ。」

その言葉に反応したのは吉継である。サングラスの下の目をくわっと見開くと、せせら笑う元就に食って掛かった。
「何が『単なる』よ、この苦しみを知らぬ者が愚弄するでないわ!ぬしの元に花粉よ降りやれ!」
大真面目にそう言い切ると、くしゅんくしゅんと可愛らしいくしゃみを何度か繰り返して鼻を啜る。
三成はそれを見て慌てて鞄の中からポケットティッシュを取り出すと、大丈夫か刑部と言ってそれを差し出した。

瞳は潤んで充血し、鼻の先は赤く擦りむけている。
どこからどう見ても辛そうな面持ちなのだけれど、何故か三成はそれが少し嬉しくて、こっそりと頬を緩ませて愛しい病人へと寄り添った。