集まれ戦国保護者会

最初の切っ掛けは家康だった。忠勝の兜に汚れが付着しており、それを磨いてやろうと胡座をかいた忠勝の上に登り向き合っていたのだ。
するとそこに金吾がやって来た。彼は二人の様子を見るなり「天海様僕も!」と瞳を輝かせると、腕を引いて天海を座らせ、彼の返事を聞く間も無くその上に座って頬を擦り寄せる。
細身の僧侶はやれやれと言いながらも金吾を下ろす気は無いようで、抱きついた背を赤子にするようにぽんぽんと叩いてあやしはじめた。

次に部屋の襖を開けたのは三成だ。彼は仇の姿を目にするや否や、お決まりの呪いの叫びを上げようとしたのだが、今回は和睦が目的よと言う吉継にそっと制されて渋々怒りを収めた。

けれど三成はそれでもまだ不満げで、家康と金吾が各々だれきっている様子を見ると、我慢した報酬だとばかりに吉継を座らせその膝に頭を置いて寝転がる。吉継もこれで凶王の怒りが冷めるならと、甘んじてそれを受け止めていた。

ちなみにその頃には既に忠勝の兜はすっかり綺麗になっており、家康が忠勝の膝でころころとしているのは完全に彼の趣味である。
吉継は流石にこの状態は何だと一瞬考えたのだが、彼の大事な三成が納得して大人しくしてくれるのなら結局文句は無いようで、やれもう少し寄りやれと膝の上の頭を腹の方へと引き寄せるだけで終わった。

常では決して考えられないような静寂が暫く部屋を満たしていたが、しかしその穏やかな空気は廊下の奥から近付く口論によってあえなく霧散してしまう。

「団子は絶対にみたらしでござる!」
「Ah?あんなsweetなのかsaltyなのか解んねーモンのどこが良いんだ、ずんだ一択に決まってんだろ!OK!?」
OKでも無いしぶっちゃけどっちでも良い、と言うのがその時部屋に居た者達共通の想いだったが、争う蒼紅にとっては重要な事らしい。佐助と小十郎は、お互い大変ですねと言う顔をして静かに頷きあっている。

政宗が襖を開けると同時に「おいテメェ等はどっちだ!」と叫んだのに、残念ながら答える者は居なかった。

その代わりに四人が目にしたのは、それぞれの保護者に甘える子供達の姿。
「……佐助!!」
叫んだのは武田の大将でも勇猛な若虎でも無く、一匹のわんこであった。
呼ばれた忍も、下らぬ争いが収まるのなら、と言う建前で、嬉しそうな顔をしながら適当な場所を陣取り座ると、膝をぽんと叩き促して見せる。
これで膝枕が二組となった。

「Ha、揃いも揃ってガキじゃねぇんだから。」
政宗はそう言いながらもチラチラと隣に居る小十郎の様子を伺い、声を掛けてはくれぬかと期待の籠った視線を向ける。
奥州筆頭だってまだまだ甘えたい盛りなのだ。

しかし、彼の希望は慈愛の僧侶が粉々に砕いた。
「なら、片倉様は私と代わって頂けませんか?そろそろ重くなって参りましたので。」
金吾は天海様ひどい!と泣くような素振りを見せながらも、自分と天海の体型については流石に心得ているようで、渋々その膝から降りると小十郎をじっと見詰める。
ツンデレが悪いとは言わない。しかしその愛情表現は時に相手に伝わりにくいものなのだ。隣にデレデレが居れば尚更である。

「仕方ねぇ、ホラ来い。」
苦笑して両手を広げた小十郎のもとに、嬉しそうな金吾がとてとてっと駆け寄った。

お母さんは今忙しいからお父さんに遊んで貰いなさい、仕方ないなーじゃあお父さんと遊ぼうか。

そんな謎の幸せ家族計画が、政宗の見えぬ右目に映った気がする。
先は一人で進めと…そう言うのか?いやその前にそんなhorrorなお母さんは絶対に認めねぇ、小十郎目を覚ませ。
頼むから誰か来てくれと政宗が心の内で祈ったのが通じたのか、閉じたばかりの襖はまたしても四人の男によって開かれた。

宗麟と宗茂はともかく、元親はきっとこの状況に異常を感じてくれるだろうし、元就は痴れ者共がとか何とか、ばっさりと切り捨ててくれるかもしれない。
さあ何とでも言ってやれ、援護の準備はOKだぜと政宗がそっとエールを送る。

それを掻き混ぜるのはやはり宗麟であった。
「此処にザビー様が居て下さったら…!」
宗茂は肩を落とし、元就は小さく肩を揺らす。その反応は同意か、同意なのか。

元親を見れば静かに項垂れており、やがて目の合った東西兄貴連合はそっと手を取り合った。
この後和睦会議は恙無く終了する。