手のひら返し

ぴったりと肌にくっついたのは、珍しく吉継の方からであった。
普段は三成が幾ら押しても押しても更に押しても録に触れてすらくれないと言うのに、稀にこうして全てを預けて甘えてくるものだから本当に始末に終えない。
尤もそんな事を思っているのは三成だけで、傍から見れば吉継は心も身体も残さず三成の所有物であり、三成がそんな心情を吐露したところで今更何をと言われるのが関の山である。

吉継が三成へと甘えを見せる切っ掛けは、未だ三成には解らない。

心が弱っている時などと言うのは簡単であるが、吉継の心が弱るなどと言うのは彼に対する侮辱であると三成は考えている。
そもそも、自分と違い吉継は他人の甘言になど惑わされない。病を患っても尚、誇り高く道を進む親友の姿は三成にとって頭を垂れるべきものの一つであり、彼の弱さを語るなど許されない事なのだ。

「刑部。」

何を考えていても構わないという、自分勝手にも聞こえるそれは、全て余さず受け止めるからと言う三成の吉継に対する全幅の信頼であり、また束縛でもある。
「刑部、刑部……吉継。」
こんな時に気の利いた言葉一つ紡げぬ自分に歯噛みしながら、それだけしか言えぬやや子のように、愛しい蝶の名前を繰り返した。