西軍さんちは愉快だな


「イィエェヤァァスゥゥウ!!」
今日も今日とて不機嫌絶不調の狂王三成はもはや鳴き声と化した叫びを上げていた。

「今日も雑賀孫市に男前臭を振り撒かれながら「烏め」と鼻で笑われたし青いよく分からん奴に絡まれたし金吾は一々欝陶しいし!何故だ、何故皆が私を裏切る!」
別に誰も裏切っている訳ではないような気もするが、それはそれ。主はほんに困ったややこ。保護者の吉継も日常よとばかりに三成を放ったらかしたまま縁側で蝶々と追いかけっこ中である。
場を共にする西軍の歴々も、どちらが真の鬼か決めるというのを口実に昼日中から酒を飲む者、日輪崇拝という名の日向ぼっこをする者、鍛練に励むと言い庭先で槍を振り回し干したばかりの洗濯物を汚す者、行った家事を端から邪魔されて呆れ怒り説教をする者、といった風に皆自由気儘に過ごしている。

そんな盟友達を気にも留めず、うろうろと落ち着かなく庭を徘徊していた三成はまた唐突に立ち止まり声を上げる。
「あれもこれも全ては家康、貴様の所為だ!」
空を仰ぎ囂と吠える凶王三成。爛々と眼光も鋭く、振り撒かれる殺気も本物に相違ないのに何故だろう。酷く間抜けである。台詞か、やはり台詞の所為なのか。

「夏が暑いのは家康の所為、空が青いのは本多の所為、波が寄せては返すのは・・・えっと奥州の・・・奥州の・・・ぎょうぶ・・・」
「片倉であろ」
「あっ片倉?そう片倉!の所為だ!」
どやぁと言わんばかりの顔だが、先程奥州何某の名前が思い出せず刑部助けてと目で訴えていたのを皆見ていた。が、生温く視線を逸らし気が付かないフリだ。
他の事をしている最中突然話を振られてもさっと答えを返す吉継のこれも義の為主の為精神と合わせて、この優しさプライスレス。

そしてフォローするつもりではないのだろうが抜群のタイミングで声を発する青年が。
「そうと決まれば打倒徳川ですな石田殿!」
にこぉっ!ぱぁっ!と擬音をつけたい程の愛くるしい笑顔を浮かべる、真田幸村その人である。だが台詞は全く可愛くない。ついでに機敏な動きで掲げたぎらりと光る二槍も可愛くない。ワシ何も悪くないのに。権現まじ涙目。

「当然だ!しかし奴の首をとるのは私だぞ!」
ふんっと鼻を鳴らし踏ん反り返る西軍総大将へ、西軍武田が大将は是非もなしと爽やかに笑って頷く。
「勿論分かっておりまする!」
「よし、それでは行くぞ真田!」
「お供致す石田殿!」
このまま真田ァ!!石田殿ォ!!さぬぁどぅああ!!いすぃどぅあどぬぅおおぁ!!と続いても違和感のない二人の雄叫びに両者の保護者はやれやれと揃って溜め息を吐いた。

「よぉし、それじゃあ俺も参加すっかぁ!!」
飲み比べに負けたのか、赤く染まった顔でふらふら立ち上がった元親はその場で躓き倒れそのままくぅくぅと妙に可愛らしい寝息を立てる。
「馬鹿の三乗めが」
どこかで聞いた事のある台詞を吐き捨てた元就は我関せずという様子で日向ぼっこ継続中。
「いやー若いモンは元気があってよかねー」
それらを豪放磊落に笑い飛ばしこの一言で片付ける島津。流石である。

とにもかくにも、今日も西軍は平和だ。



End