逆転の裏側

はぁと息を吐いたのを、真横に居る三成が気がつかない筈も無い。
聞こえよがしにそうした訳では無いのだが、原因がその男であるのだから仕方ないだろうと吉継は心の中で責任を擦り付けた。

「刑部?どうした?」
三成はもしかして善く無かったのであろうかと、常には見せぬ不安げな表情を浮かべながら今しがたまで抱き合った相手の顔を覗き込む。すると吉継はゆるゆると首を振ってそれを否定し、さらりと流れる銀糸を撫でた。

「主に触れられて悦く無い訳がなかろう。…ただ、我も男故な。一度くらい主を可愛がってやれればと思ったのよ。」
三成は吉継の事を美しいだの何だのと言うのは今に始まった事では無いが、吉継は三成が彼を想うのと同じ位三成の事を可愛いと思っている。

自分の身体がもっと丈夫なら、せめて足が動くのなら。今とは逆に三成を責め立ててヒィヒィ言わせてやったものをと何度も考えた。
しかしいつの間にか脚が萎え腰が萎え、歩く事すらままならなくなっており、恋人を啼かせるどころか自分がよがるのも精一杯になっている。

「刑部がそう望むのなら、私は構わないが?」
何なら今からでもと、纏ったばかりの襦袢に手をかけるのをそっと制して指を絡めた。
「気持ちだけ、受け取っておこ。」
吉継が望むのは、抱く側に回る事ではなく主導権を握る事だ。それに。

「ぬしに抱かれるのは、心地いい。」
にやりと笑って流し目を一つくれてやれば、三成は顔を赤らめやはり着物を脱ぎ始めた。