砂糖抜き

「バレンタインはガトーショコラが良いでござる。」
これは二週間程前に幸村が言った台詞である。
請われた元忍は「アンタからリクエストしちゃ駄目でしょ。」と苦笑を漏らしていたが、その態度は満更でも無さそうで。吉継は愛いものよと横目でその様子を見ていた筈であったのだが。

「やれどうしてこうなった。」
白い頬を染めて目を輝かせ、明らかに興奮を隠せていない三成は、定位置である吉継の膝の上に頭を置いたまま再び同じ言葉を繰り返した。
「何度も言わせるな、私のチョコは何処だ。」

期待に満ちているその表情を前に、まさか用意していないとは言えない。しかし、用意していないものはしていない。
三成の事はもちろん愛しているが、それとこれとは話が別だ。と言うかあのバレンタインフェアの中に分け入って本命チョコを用意する度量は無い。一時期ブームであった逆チョコの波も収まりつつある昨今、男が一人で高級チョコを買いに行く姿など晒し者意外の何であると言うのか。

しかし、三成が自らものを食べようとしているのも己からのチョコに期待しているのも、無下に出来る吉継では無かった。
常備している板チョコでも口移して誤魔化してやろうと冷蔵庫へと立ち上がる背中に、痛い程の視線が突き刺さるのはご愛嬌と言うものである。