「おにっ!はそっ!とぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

大阪城に絶叫が響くのは毎度の事であるが、本日はどうも様子が違っていた。

「痛い痛い痛いいだだだだ痛ぇって!!!!!!!!」
涙目になりながら同じくそう叫ぶのは四国の鬼この長曽我部元親。最初に絶叫を上げたのは雑賀衆の頭である雑賀孫市で、彼女は連射銃の中に詰め込んだ炒り豆を迷い無く元親に向けて発砲している。
更に、元親は気付いていないが柱の影から真田忍隊の長である猿飛佐助が手裏剣投げの要領で援護射撃を行っていた。

大阪城は、今日も平和である。


魔弾


「お口を開けて。はい、あーん。」
甘い声を発しているのは天海で、その手には細長い巻き寿司が捕まれていた。
「食べきるまで、喋ってはいけないんですよ。そうそう、金吾さんは良い子ですね。」
天海は頷きながらもぐもぐと口を動かす金吾に微笑むと、今度は自分の口へとその恵方巻きを運ぶべく、薄紫の紅を指した唇に赤い舌を這わせる。
ぺろぺろと海苔を舐めるだけでいつまで経っても齧り付く気配を見せない天海に、元就達はげんなりとした息を吐いた。

「皆さんもどうです?美味しいですよ、恵方巻き。」
その息の音は勿論聞こえているのであろう。何気無い顔をして天海が皿に盛られた寿司の山をずいと勧めると、その一番近くに居た吉継が緩く首を振って拒絶を示した。
「いや結構よ、ケッコウ。我は」
元就もそれに同意するように頷いている。
ただ、普段は食に興味など示さない三成が珍しくそれを凝視しており、吉継は驚いたように瞬いて愛しい凶王の名前を読んだ。
「食欲があるのかえ?」
しかし、吉継の期待の籠った質問は、それはないの一言であっさりと切って捨てられる。しかしそれならば、何故こんなにも巻き寿司を見つめているのだろうか。
理由はすぐに知れた。

「刑部には部屋で違うものをもぐもぐして貰おうと「三成ちと黙りやれ。」

重ねて言うが、今日も大阪城は平和である。