黄泉路は下らない

とんだ生臭坊主めと常々思ってはいたが、その件に関しては完全に八つ当たりであった。そのくらいの知識はあるのだからわざわざ言わずとも良い、むしろ思い出したく無いのだから話題に出すな。

派手に舌打ちをしたのは毛利だけであったが、内心は他の者も似たようなものだった。
しかし視線の先に居る天海はそんな視線を集めても動じる事は無く、むしろ嬉々とした風に曇天色の瞳を細める。

「はて、その言い様ではまるで我が極楽にでも行けるように聞こえるが。」
元就が睨んだ先には、漆塗りの箸が握られた吉継の手。煮物を摘まんでいた先端は、その汁でてらてらと濡れている。

「極楽と地獄は同じ場所にある。と言う方も居られるんですよ。大切なのは自分自身が何処に居るかでは無く、何を思うかであると。」
天海曰く、死後の世界においては食事に使う箸が長く、自分で箸を取り食事をする事などまず出来ないらしい。
ただ、単に目の前の食事が食べられぬと言う訳ではなく、それを解消する為の方法だって勿論存在する。

「下らん。大体既に死んでいる身で、食事など必要無いだろう。」
「ヒッヒ、確かにそれもそうよ。」
渋々、と言った態度を全面に押し出しながら米を噛んでいた三成が、かぱりと口を開けた。
吉継は阿吽の呼吸で摘まんだ煮物をそこに放り込むと、次は自分の口を開いて三成の箸が動くのを待つ。

それはまさしく、天海が先ほど述べた極楽における食事風景そのもので。

「行う方は極楽で、見てる方は地獄ってか?」
「ふん、あの世も此処も変わらぬではないか。」
「佐助!佐助!」

ただ一人目をキラキラと輝かせた幸村の他は、何とも言えぬ顔で黙って己の食事を進めていた。