熱源

「帰ったのか。」
そう言ったのは三成だった。
佐助は何とも言えない表情で三成と幸村を交互に眺めると、やがて額に手を当てて静かに顔を伏せる。

「…ウチの大将が……どうも…。」
気にするなと笑う吉継の声が響いても、未だ幸村から言葉は紡がれない。
幸村がこの二人に懐いているのは、佐助もとてもよく知っていた。特に自分が城を開ける時、殆ど入り浸るようになっていると聞いたのは万が一を思い残しておいた部下からで。
俺様が幾ら気ィ使ってもアンタ自身が気を付けなきゃどうしようも無いんだからねと、海より深いため息を吐いたのは一体何時の事だっただろう。
三成の性格から考えても今の西軍の状況から考えても、裏切られる可能性はかなり低いが、それでも万が一はどこにでも転がっている。

しかしそんな心配も、すよすよと心地よさそうに寝息を立てている幸村の前では単なる徒労に終わってしまう。佐助の苦労が忍ばれようというものだ。
「いやいや、真田殿には感謝しておる。お陰で三成の世話をする手間が省けたわ。」
吉継曰く、この部屋で昼食を取り、時には昼寝をする幸村につられるように、三成も幸村が食べている時は食べ、眠っている時は眠るようになったらしい。
そう言われて三成を見てみれば、確かに後ろ髪が少し乱れている。
佐助が来た事によって目が覚めたらしいが、この警戒心の塊のような男が吉継以外の前で眠るなど、今までは考えられなかったのに。

何だか全部どうでも良くなってしまって、佐助も勧められるまま炬燵へと足を差し入れた。