なまにえ


奥州特製鍋に舌鼓を打っている金吾の後ろで、政宗と小十郎は顔を見合せてそっとため息を吐いていた。
小十郎の手の内にある一通の書状、全ての元凶とも言えるそれは金吾の部下である僧侶から送られて来たもので、見ようによっては…どころか完全に宣戦布告にしか思えないその内容のお陰で、伊達軍だけでなく金吾本人も大変な目にあったのだ。
この幼い武将の命を狙っての計略かとも考えたが、この主を見ていると部下も単に抜けているだけなのかもしれないとも思えてくるのが不思議だ。
ため息混じりに政宗がそうぼやくと、金吾は困ったように頬を掻きながら手紙の主を擁護する。

「天海様は何て言うか…ちょっと天然なところがあるんだよ。」
この男に天然と言わしめるなどと、逆にただの阿呆では無いような気がしてきた。恐らくはあえて空気を読まないか何か腹に隠し持っているか、その両方というのも捨てがたい。
「Mypaceって事か?」

突如放たれた英語の意味は金吾には解らなかったようで、不思議そうに首を傾げたあと「政宗くんがそう言うならそうなんじゃないかなぁ」と曖昧な肯定をしてから、何事も無かったかのように食べ終えた鍋の片付けを始めた。


「いつか僕のお城にも来てよ。たくさんご馳走用意するからさ!」
へっぴり腰で馬に乗り、笑顔で手を振る金吾の言葉は完全に善意なのだろう。これは幸い、と唇を持ち上げる政宗の、何か企んだような表情にも気付いた様子は無い。
「小十郎。」
「はっ。」
隻眼の竜は、どこまでも楽しそうに声を張り上げた。

「烏城に行く準備をするぜ。Ha!楽しいpartyになりそうだ。」



マイペースって和製英語だそうですね。