うつくしいひと

不粋だの情緒が無いだのとよく言われはするが、実際のところ三成は美しいものが好きである。彼が好むのは特に人間だ。味方であれ敵であれ、顔の整った人間は好ましく思っている。ただ三成がそれを一切態度に出さないだけで。

例えば武田の若虎。瞳が大きく健康的な肌色をしており、吉継風に言うならいかにも綺羅々々しい。加えてあの愛らしい態度である。他人から愛されるべくして産まれたのだなぁと、彼を見る度にいっそ感心してしまう。
性格と言う点では真田に比べるまでも無いが、中国の毛利も美しい面立ちをしていると思う。背格好も女のように小柄であるし、昔は苦労したのでは無かろうかと要らぬ心配すらしてしまいそうになったが、あの男ならばその程度の火の粉は簡単に振り払ったであろうなと何となく想像がついた。そうそう、中国ならば功績こそ地味ではあるものの、尼子だかと言う男も美しい。
それから刑部の人形である第五天。傾国の美女とはかくあるべきと言う姿を如実に体現しており、長い睫毛に縁取られた黒い瞳は見ていると吸い込まれそうになる。

敵ながら奥州も忘れてはいけない。秀吉様に命ぜられ戦に行く時も、美しい男が居ると聞いて内心では少し楽しみにしていたのだ。
そして現れた男の噂に違わぬ美丈夫っぷりに、思わずほぅと甘い息を吐きそうになったのを覚えている。
派手に色づいている頬の刀傷も、彼の美しさを損なう事は無く、むしろ引き立てていると言っても過言では無かった。
それに、なんとかなるみ…だっただろうか?口の辺りを隠した男も中々に良い顔をしていたと記憶にはある。

しかし、そんな数多の美形を差し置いて、何よりも美しいのは私の刑部だ。三成は心の底からそう感じている。
そんな事を言えば本人は断固として否定するだろうし、病に爛れた肌は確かに美しいと言うには程遠いかもしれない。
だが奴にはあの眼がある。闇夜に浮かぶ月のように、優しさと恐怖を兼ね備えた、あの眼。
三成はあの眼に見詰められるだけで、まるで心の臓を握り潰されるような心地になり、かと言ってそれが反らされてしまえば今度はその虚無にどうにも堪らない気持ちになってしまうのだ。

嗚呼、刑部、私の知る限り最も気高く美しい友よ。
私は貴様がその顔を隠す事に歓びを感じている。貴様の素顔を知るのは私だけなのだと、その美しさに触れられるのが私だけなのだと。
刑部、この醜い私を笑ってくれ。私は貴様を案じながら、貴様の病を喜んでいるのだ。
こんな男を友と呼んでくれる、貴様が何より愛おしい。



政宗「解せぬ」