急いでますから


よく動き、よく食べて、よく眠る子供だった。
お陰で背丈はみるみると伸び、十を数える頃には元服した青年に間違えられることも少なくはなく、未だ子供のかたちをした小姓仲間に『そんなに生き急ぐと早死にするぞ』と羨望半分の嫌味を言われたりもした。
大切なのは生き様でありその長短ではないと思ってはいたが、流石に道半ばで潰えてしまうのは悔しい。では本当に成長が早い者は死ぬのも早いのかと、寺の和尚様に尋ねたことがある。
彼は私の顔をじっと見つめた後、両の手を取って指先で皺をなぞった後、微笑んで静かに告げた。

「私はね佐吉、実を言うと貴方を見た時少し驚いた。」
「驚いた?」
「貴方の頭のかたちは珍しいでしょう…ふふ、そうですね、からかわれているのは知っています。でも、そのかたちはとても良いものなのですよ。」
私はひとよりも少々頭が長く、それ故に髷を結おうとすると非常に不恰好になる。それで仕方なく、前髪の一部だけを伸ばして長短を誤魔化したような髪型になっているのだ。そんな私の頭のかたちを、良いものだと和尚様は言う。

「…あまり他言してはいけませんよ。後ろ側の長い頭蓋骨は、仙人の骨と言って、健康と長寿の象徴なのです。それに貴方の手も、生命を司る線が長く伸びている。強いて言うなら、少し腹が弱いようですね。食事は取り過ぎるのも控え過ぎるのも良くありません、なまぐさは避けた方が良いでしょう。これからもよく食べて、働き、眠りなさい。貴方には長生きの才がある。」
秀吉様を知らなかった当時の私にとって、一番尊敬出来る大人であった和尚様。秀吉様と引き合わせてくれたのはあの方なのだから、今でも一目置くべきお方だと思っている。そんな人に太鼓判を捺されて、私は己に与えられた強運に幼い顔を紅潮させて喜んだのだ。



紀之介が病に倒れるまでは。




どう足掻こうが、幾ら祈ろうが嘆こうが怒ろうが、病は愛しい人の肉体を蝕み刻一刻とその命の蝋燭を削っていく。
共に産まれることが出来なかったのならば、せめて共に逝きたいとそう願っていた。刑部亡き後に私は私で居られる自信が無い。
だが、刑部は後追いなど許さないであろう。健康な肉体を持ち、末永く生きられる私が途中でそれを放り出すなぞ彼に対する冒涜でしかない。
一体私はどうすれば良い。
怪我でもすれば良いと先鋒を駆けた、病になれば良いと身体を冷やした。飲まず食わずで奔走しても、私に与えられたという才で以てか風邪一つひいた記憶が無い。


よく食べて、よく動き、よく眠れば、私は長生きするらしい。ならばそれをしなければ、私の寿命は刑部と同じ長さにまで削られるのか。
動かぬ、と言う選択肢だけは私に目をかけて下さった秀吉様の為、実行することは出来なかったが、残りの二つは出来うる限りに削り取り、和尚様の教えを破ってなまぐさだって口にした。
一体、私はどうすれば貴様と共に逝けるのだ。



私は今、急いでいる。