鬼灯色

その途端に表情が変わり、事務的に切り刻むだけであった動きが止まって代わりに鈍い打撃音がその場に響いた。
男は衝撃で首の骨が折れてしまったらしく、結局は一瞬でその若い命を散らせたのだが、唸る三成は未だに不満らしい。辺りを囲んでいる他の兵卒に向き直ると今度こそ刀を光らせ大地に紅を撒き散らした。

「…しっかし。」
更地と化した辺りを眺めながら、元親は思わず呟く。
「顔に傷入れられたくらいでそんな怒んなくてもよぉ。」
嫁入り前の娘ならばともかく、三成は男でしかも武将である。生傷は絶えぬものであるし、これごときでいちいちこのように激昂していてはキリが無い。
気が短いのは知っていたつもりだが、これは些か度が過ぎるのではないかと眉を寄せて打ち捨てられた死骸に目をやった。

「…刑部が。」
「ん?」
話し掛けはしたが、まさか返事が来るとは思っておらず、小さく聞こえた言葉に驚いて顔を上げる。
「刑部が、私の顔を好きだと言ったのだ。」
だから私はこれを損なわれる事を許可しないと、表情の無い表情で返り血と共に己の傷を拭って再び歩きだした。
奴が言うのは目の下に隈を作ったり、痩せて骨が浮くようになってはならないと言う事なのではないかと元親は思ったが、包帯と仮面に包まれた軍師の顔を思い浮かべて口を開くのを止めた。

不養生も病も、目に見えない傷に対してきっと三成は頓着しないだろうから、せめて目に見える傷だけでも防げれば良い。