第六夜


最後に一つだけ残った灯りは、何とも弱く頼りない。今にも溶けて消えそうになっている蝋燭を目の前に掲げると、政宗は周囲をぐるりと見回し宣言した。
「これがLast storyだ、お前等覚悟しろよ?」

百物語、伊達政宗

―――蒸し暑い夏の日だった。俺は残業帰りで、クタクタになりながらも晩飯を確保しようとコンビニに向かってたんだ。
時間は…仕事が終わったのが終電になんとか間に合う頃だったからな、大体その辺りだ。
そんな時間だから辺りも真っ暗、当然人通りも殆ど無い。そんな道を歩いてたら、ふと、冷たい風が吹いたんだ。
それが気持ちの良いtypeの風じゃねぇ、じめじめ暑い癖に背筋がすっと冷えるような、嫌な予感のする風だった。

ある交差点に差し掛かると、その嫌な気配は更に増した。そう言えばやたらの事故の多い交差点があるって同僚が言ってたなって思い出して、ここがその場所かとその時気付いたんだ。
妙なもんに出くわさないとも限らないし、とにかく切り抜けようと自然と早足になって、遂にその交差点を通り過ぎた。

交差点の中央に来たその時だ、なんつったっけな…horror映画に出てたのにそっくりな、白い顔した子供が薄気味悪い無表情でじーっと俺の方を見てたんだよ。
絶対に振り返っちゃいけねぇって言い聞かせて、走り出しそうになるのを堪えて何とかコンビニに着いた。いつも通ってる店があの時ほど遠く感じた事ぁ無かったぜ。
ところで、だ。コンビニに入ってあることに気が付いたんだ。店に入って、店員の前を通り過ぎた時、俺はそいつの顔が見えなかった。この眼帯だ、当然だろう。
何が言いたいのかって?



あの子供はあの時間違い無く、俺の右側に居たんだ。


目で見るもんじゃねぇってよく解ったよ、テメェ等も気を付けろよ?目を閉じた程度じゃ逃げられないからな。

―――最後の蝋燭を、そっと消した

訪れた静寂に、誰もが心拍数を上げ唾を飲み込む。どこから聞こえてくるのか分からない荒い呼吸音は、本当に人間のものなのだろうか。

携帯電話が大音量で鳴り響いた。

金吾が思わず叫び声を上げたのを、咎める者は誰も居ない。
鳴っているのは全員の携帯で、いち早く混乱から抜け出した者、そもそもこのような事態を予測していた者達が己の携帯を引っ掴み、着信音の原因を調べようと画面を開いた。


「なん……だと……?」
先ず聞こえたのは、元就の呆然とした呟き。次いで絶叫が闇を包む。




「っ…秀吉様ァァァァァ!!!!!!」
「おっ、お館様ァァァァァ!!!!!」





彼らの携帯には、一様に同じ内容のメールが届いていた。
『最新作戦国BASARA4、既存武将の続投は無し』



差出人の名前が空欄になっている事に気付いたのは、大分経ってからであった。