第五夜


あれよと言う間に時は進み、気が付けば、残りの灯りは一人に一つ、何とか行き渡る程度にしか残っていない。


八十六物語、猿飛佐助

―――俺様が肝試しに行った時の話をしようか。
お目当ての場所は廃病院。医療ミスが原因で廃院したらしいんだけど、その後も十年以上放ったらかしててさ。真っ昼間に見ても何と無く薄暗い、絶好の肝試しスポットだったんだ。
それでもまぁ、こちとら本物の忍者ですしね。その程度で闇属性がびびる訳無いじゃんてむしろ勢いづいて、夜中の二時とかに乗り込んだんだ。

俺様肝試しってそれが初めてだったんだけどさー、出るわ出るわ。ラップ音って言うの?変な物音もしたし、窓の外に白い影がすーっと横切ったりもしてたよ。
影が出てきた時は誘ってくれた連中…筋金入りのオカルトマニアだったんだけど、俺様もそいつらも大盛り上がりだったね。

霊安室には何にも無かったんだけど、あっちこっちうろうろしてる内に、扉中べったべたにガムテープの貼られた扉を見付けたんだ。場所から見てどう考えても病室の一つだったんだけど、やっぱり気になるじゃん?ガムテープ剥がして中覗いてみたらさ。


綺麗だったんだよ。
十年以上使われてない病院なのに、その病室だけすぐ直前まで人が居たような生活感があったんだ。
ここは入っちゃ駄目だねってメンバーの一人が言い出して、他の連中もお邪魔しましたって頭下げて扉閉めて、すぐ解散したよ。
あれ入ってたらどうなってたんだろうって考えると、ちょっと惜しい事したよね。

―――八十六本目の蝋燭が消えた。


残り十を切った頃から、全員の心中ではカウントダウンが行われている。


九十九物語、前田慶次

―――小学生の頃の話だ。
俺は結構田舎の方に住んでて、近所には山や川が沢山あったんだ。今でももちろん残ってる。
小学校も全校生徒合わせて三十人くらいしか居ない小さな学校でさ、何にも無い所だけどみんなで楽しくやってたんだよ。

でも俺が五年生になった時、転校生がやって来て状況が変わったんだ。
そいつは俺と同じ五年生だったんだけど、どうにも乱暴な上に自分勝手で、学校の仲間に田舎者って因縁をつけて暴力を振るうような奴だった。最初は俺たちも、突然変わった環境に戸惑ってるだけだ、話せばきっと分かってくれるって信じてんだ。…でも違った。
色々調べて知ったんだけど、そいつは前の学校でも気に入らない奴を苛めて病院送りにしてたんだ。

このままじゃあうちの学校の奴も怪我をさせられる、いや、最悪殺される。俺はそう思って、ある計画を立てたんだ。
学校よりも更に山奥に入った所に、古い神社があったんだけど、そこは神主さんも常駐してない子供の秘密の遊び場だったんだ。俺はそこに転校生を呼び出して、お堂の中に閉じ込めた。外から閂を掛けて出られないようにしてから『もう学校の奴らを苛めるんじゃない』って怒鳴って、その日はそのまま家に帰ったんだ。

翌日、俺はこれであいつも反省しただろうとお堂に行ったんだけど、何故か、お堂は空っぽだった。
閂はかかったままで、扉も壊れてない。誰か大人が気付いてあいつを助けたのかなってその時は思ったんだけどさ。
それ以来、学校には来なかったし、家にも帰らなかったらしいんだ。

神隠しか誘拐か、けど俺が本当に怖かったのは、そいつの親が疲れた顔で、熊か何かに教われた事故だろうって言って、話を片付けたことだったよ。

―――消えたのは、九十九本目の蝋燭。