第三夜


三順目、四順目ともなると話のタネもそろそろ尽きてくる。元親が苦し紛れに話題に上げたのは口裂け女の都市伝説で、話を聞いていた者の胸中は恐怖よりも懐かしさで占められていた。


三十七物語、石田三成

―――私の住んでいるマンションは、すぐ目の前が片側一車線の道路になっている。
ある日私が帰宅すると、野次馬と警察がその道路を塞いでいた。煩わしいと思いながらもそこを抜けねば家には入れないので近付いて、それで分かったのだが、どうやら事故があったらしい。
割れて粉々になったガラスが反対車線にまで散らばっていて、その後で部屋の窓から外を見た時、道路に大きな血痕があるのも確認出来た。

その日はそれだけで終わったが、問題は翌日だ。
起床して窓の外を見るとやけに鳥が飛んでいて、私の部屋のベランダにも鳩が二羽ほど止まっていた。汚されては面倒だと思いベランダへ出て追い払うと、そこから見えた道路の一ヶ所に、異常なほど鳥が密集していたんだ。
それがどう見ても、人間のかたちにしか見えなかった。

最初は本当にそこに誰か居るのかと思った程だ。だが、車が通って鳥達が飛び去り何もなかったと知れた。

ヒトガタだった頭の部分は、前日の血痕がまだ残っていた。

その日の朝刊で知ったんだが、その事故ではバイクから投げ出された男が即死したらしい。
鳥は何かを食っているようにも見えたんだが、奴等は何をつついていたんだろうな。

―――三十七本目の蝋燭が消された。


官兵衛がぼったくりバーに引っ掛かり黒服に囲まれた時の話を終えると、それまでの緊張感が少し緩み誰ともなく好き好きに喋り始めた。
完全に脱線しそうになっていたが、何の前触れもなく、一瞬、声が止んだ。誰かが何かを言った訳でもなく、ただ唐突に。


「幽霊が通った。」


声の主は、集まった視線をものともせずに笑うと、次の語り部となるべく火の消えていない蝋燭を一本手に取った。
「ヒヒッ、ぬしら、フォークロアを知っておるか?」

四十五物語、大谷吉継

―――信じようと、信じまいと。
フォークロアは必ずこの言葉で始まる。これから伝える話を信じるも信じないも、ぬしら次第よ。

ある村に流行り病が蔓延し、村人が次々と死んでいった。
隣村の人間がそのことに気が付いたのは随分と後になってからで、せめて生き残りを救おうと村中を探し回った。
だが、どうにもおかしい。墓の数は、村人の数と一致しており、更に調べてみると全員が荼毘に付されておったのよ。
果たして、最後の死人は誰が埋めたのか。


信じようと、信じまいと。

―――四十五本目の火を吹き消した。