第二夜


政宗が提案し、家康が呼び掛け、それに応えてこの場に集まったのは、幸村、佐助、小十郎、慶次、三成、吉継、元就、元親、官兵衛、天海、金吾の合計十三人。
本来ならばこれに忠勝を入れての十四人を予定していたのだが、彼はどうしても外せない仕事があるらしくこの集まりに来ることは出来なかった。魔を呼ぶと言うその数になったのは、偶然かそれとも必然か。

そろそろ一巡が終わるかという頃、それまで無言で話を聞いていた男が静かに挙手をした。
「次は俺が話そう。」


十二物語、片倉小十郎

―――これは政宗様にも言わなかったことなんだがな。丁度良い機会だ、懺悔だと思って聞いてくれ。
あれは俺が大学生の時だった。仲間同士で喋ってる最中、どんな流れだったかは忘れたがその中の一人がこんなことを言い出したんだ。
『上京してからずっと気になってたんだが、近所の犬の鳴き方がおかしい。あれは虐待されてるんじゃないだろうか。』
落ち着いて考えれば、警察なり愛護団体なりに連絡すれば済むことだったんだが、その時は皆酒も入っていたから勢いがついたんだろうな。その場所に行ってみるかって話になったんだ。
言い出した奴の案内でそいつの家の近所に向かうと、確かに変な声が聞こえてくるんだ。『ワンワン』じゃなくて『ギャオンギャオン』って感じの声が。
聞いてるこっちまで痛々しい気持ちになるようなその声をたよりにその現場に向かうと、やがて一軒のアパートにたどり着いた。

だが考えてもみろ、問題はここからだ。幾ら妙な声がするとは言え他人様の家に突然踏み込む訳にはいかねぇ。扉の前で大の男が四人…いや、五人だったか。とにかく立ち往生だ。
するとそこに、一人のばぁさんがやって来た。まさか家の人間かと焦ったんだが、ばぁさんはアパートの大家だと名乗って、俺たちにこう言ったんだ。
『薄気味悪い鳴き声だろ?前々から苦情が来てるんだよ、礼はするからアンタ等ちょっと注意しちゃくれないか。』ってな。
言い出しっぺは丁度良いずっと気になってたんだって大喜びでな、大家から鍵も借りて早速怒鳴り込んだ。

部屋の中で何をしてたと思う?

暴れる犬を押さえ付けて、裸で腰を振ってる男が居たんだ。

流石の俺でも鳥肌が立ったよ。離れた所に居た大家のばぁさんはぶっ倒れちまって、そのまま救急車だ。
結局その変態はアパートから追い出されたらしいんだが……犬がどうなったのかは、誰も知らねぇ。

―――十二本目の蝋燭が消された。


政宗が片方しか無い目を限界まで開いて声も出せずに居ると、小十郎はあっけらかんと尋ねる。
「信じましたか?」
「こっ、小十郎!!」
その種明かし発言にほっと息を吐いたのは、政宗一人では無かった。

二順目が始まる。白い服はまだ赤い炎に照らされて色付いていた。


二十四物語、真田幸村

―――片倉殿が犬の話をしていたので、某は猫の話をしようと思う。
通勤の途中でいつも見かけるその猫は、どこかで飼われているのか大層人懐っこく、某もたまに煮干しなどを与えて可愛がっていたのでござる。
その猫に惹かれたのにはそもそも訳がありまして、白地の右腹に点々とある黒ぶち模様がどうにも某の旗印、六文銭のように見え…佐助笑うな!いや、あくまでも猫の柄でござる。黒いぶちが六つ点々と並んでいたのを、某がそう感じたまでのこと。とにかくそんな猫が居たのでござる。

猫とはほぼ毎日のように顔を合わせておったのだが、ある日から突然、ぷつりと見なくなりまして。一日二日見ないことはあれど、一週間を越えて姿を見せないという事は無く、もしや事故にでもあったのかと少し心配していたのだが、一月ほど経ったある日、ひょっこりと戻ってきたのでござる。
元気だったのかそれは良かったと喜んだのだが、猫はどこか妙だった。

近付いてから分かったのだが、今まで右腹にあった六文銭が、左腹へと移動していた…いや、まるで鏡に映したかのように、模様が完全に左右反対になっていたのでござる。
拙者が驚いて立ち止まると、猫はそのまま走り去ってしまい申した。それ以降、その猫の姿は見ておらぬ。

あれは一体何だったのでござろう。


―――幸村は二十四本目の火を吹き消した。