第一夜
床一面を覆い尽くすほど並んだ蝋燭は、恐怖感よりも先に熱そうだなという現実的な感想をその場の人間に抱かせた。
最後の話が終わる前に消えてしまうんじゃないかと元親が首を傾げたのに対し、そうならないよう一秒でも早く話を始めようとこの場を用意した家康が笑って着席を促す。
「それじゃあ第一回、戦国武将百物語始めるよ!!」
慶次の威勢の良い掛け声の後、数人が歓声を上げて手を叩く。百物語って雰囲気じゃないだろうと苦く笑う者も中には居るが、あからさまに嫌な顔をしている人間は一人も居ない。
この時はまだ誰も、後に訪れる絶望を理解してはいなかった。
「貴様が言い出したのだから貴様から始めるべきだろう。」
「言い出しっぺは独眼竜なんだが…まぁメールしたのはワシだしな、政宗殿にはトリを頼むか。」
三成に急かされた家康は、それで良いだろうかと周囲を見回し了承を得ると、仕事帰りそのままだったらしい窮屈そうなネクタイを緩めて静かに語り始める。
一物語、徳川家康
―――つい最近、起こったことなんだけどな。
ワシはいつものように外回りをしていて、新製品のパンフレットを片手に得意先を回ってたんだ。するとある場所で、見慣れない人影が手を降りながらこっちに近付いて来たんだ。
その時点で背筋が薄ら寒くはなったんだが、営業中って言うのもあったし、軽く会釈だけしといたんだがな。よく見ると、高校の時の同級生だったんだ。『徳川だよな、久しぶり。』なんて言ってくるもんだからさ。
ぞっとしたよ。
何人かは知ってると思うが、ワシは今製薬会社に勤めてるんだ。そいつと会ったのは……正解だよ毛利殿。そう、精神病棟だ。
何があったのかは知らないんだが、よく知ってる相手が、って言うのは、やっぱり恐ろしかったよ。
これで、ワシの話は終わりだ。
―――そうして、一つ目の蝋燭は消された。
「家康さん、それ、ちょっと違うんじゃあ…。」
「いやいやいや、相当怖かったぞ!?」
金吾の尤もな呟きに、家康はどれだけ自身が驚いたかと言うのを懸命にアピールする。
次の話へ進めないからと鶴姫が二人をとりなし、物語は着々と進んでいった。