それはほんとにおれのこか


「何故なんだ吉継……。私が一体何をした…っ!!」

もう何度目になるか分からない叫びを上げて、三成はローテーブルへと突っ伏した。

何時もに増して青白い顔には覇気が無く、朝からずっとこの調子であった三成を心配した元親と官兵衛と、ついでに面白そうだからと言う理由で元就が飲みに誘ったのはつい数時間前の事である。
何があったんだよ話くらい聞くぜ言ってみろよと宥めてすかされて、最初は口をつぐんでいた三成もぽつぽつと相槌をうったり頷いたり、やがてとうとう観念したのか短く呟いた。



「吉継が妊娠した。」


元親は目を丸くしたが、官兵衛と元就は特に驚いた様子も無いらしい。むしろ漸くかとすら告げて見せたのに泡をくって、誰の子なのかと恐る恐る尋ねたところ、静かな声で「私の子だ。」と返事が返ってきた。
官兵衛が良かったじゃないかと肩を叩こうとして、そこでやっと三成の様子のおかしさに二人も気付いた。

普段ならば「私の子に決まっているだろう残滅されたいのか。」くらいの罵声が飛んでくるのが石田三成と言う男だ。
愛しい女との間に子が出来たにしては表情が暗すぎる。確かに婚前の女を孕ませて、というのは潔癖の気がある三成にとって多少納得のいかない事態であろうが、それにしたってここまで浮かない顔をする理由は無い。

三人が黙っていると三成は更に続ける。
「昨日家に吉継と家康が来た。」
幼馴染みであると言う二人は昔からそんな感じで、相変わらず仲良いななどと思ったのは元親だけではない。三成が居なければ吉継の彼氏は家康だと思われていた事だろう。
「結婚しようと思うのだがと言われた。」
ぐったりと顔を臥せた三成の表情は伺えなかったが、何となく返答を求められている気がしたので元親は続きを促しがてら感想を伝えてみる。
「その言い方は変じゃないか?」
「変なのは内容だ。」
「内容?」
「吉継と家康が結婚するらしい。」

「何故そうなる。」
「そんなもの私が聞きたい!!!!」
元就の思わず放った突っ込みに、三成は机を殴りそう叫んだ。ですよねと官兵衛が思わず漏らすと、とばっちりの拳が飛んで彼の目前には星が舞う。

ヒト一人殴り付けて勢いづいた三成は、益々語気を強くして荒れ狂う。
「子は私の子だと言っていた。私よりも家康が好きなのかと聞いたら、そんなわけが無いと二人同時に言われた。」

「私に父親は務まらないらしい…だからってそれは無いだろう!!」

「何故だ吉継…私が一体何をした……。」


だがそれも一瞬であった。やがてめそめそと泣き崩れ、そして冒頭へと至る。
「吉継……うぅ…。」
これは駄目だ、どっちかって言うと徳川大谷の幼なじみコンビが主に。
友人の為に一肌脱ごうと立ち上がった官兵衛に元親に、きっと元就も引き摺られるようにして明日は説教を垂れねばならない。