李下


まるで女児が人形遊びをするかのように、吉継は娘を着飾るのが好きだった。
とは言えども業に魅入られた彼に近付く娘など伊予の巫女と第五天くらいのもので、更に言えば彼女達はどちらも将兵としての働きをせねばならずいつでも彼の側で座っているという訳にもいかない。
その日は生憎とどちらの娘も出払っており、折角届いた東雲色の着物は包帯を巻かれた手の上で手持ちぶさたに玩ばれていた。


「なんとまぁ、間の悪い。」
意匠を凝らして作らせたそれは、袖口や裾にひらめく飾り、現代のレースのようなものが着いており、動くには邪魔そうであるが見た目はとにかく愛らしい。
これを着てくるくると回る鶴姫や、手玉遊びに興じる市を想像して吉継は早く彼女達が帰ってこないものかと息を吐いた。


ほんの出来心である。
邪魔そうな袖口の飾りに触れるつもりで手を通した。当然ではあるが、自分が普段着ているような着物とは色こそ似ているが質感も柄もまるで違う。何だか少し愉快になって、暫くそのまま赤い着物を見詰めていた。

「刑部。」
「やれ、恥ずかしい所を見られてしまったナァ。」
部屋へと近寄る男の気配に気付くことが出来ず、いつの間にか開いていた襖の向こうには綺羅星が立っている。そうだ、少女が居ないのならばせめて三成でも着飾らせて楽しもう。そう思ってひらりと手招きで友を呼んだ。

三成は一瞬だけ躊躇ったが、素直に部屋の中へと入ると大股で吉継に近付き、そのまま押し倒す。


「良い趣味だ。」
珍しいこともあるものだ、この男が見た目ばかりの服を誉めるなど。高価な布地と染めではあるが、柄は派手で一見かなり俗っぽい。嗚呼しかし、彼自身をきらびやかに飾るのは非常に楽しそうだ。
「今度から閨では女の服を着ろ。倒錯的で酷くそそる。」


残念ながらその思考は三成の一言で泡と消え、更には折角金子を積んで買った新しい着物は愛らしい女を飾ることは一度も無かった。