幾千日を越えられない


第一志望への合格が決まった時、誰よりも喜んだのは年上の幼馴染み兼恋人だった。

何しろ試験の前夜は眠る事ができず、合格発表に到っては一週間も前から「後○日と○時間」と呪文のように唱えて暇さえあれば学校のホームページを覗いていたのだから、その喜びぶりも知れよう。
隣でそうまで緊張されると、本人の感じるプレッシャーはとんでもないのではと思うかもしれないが、そんな事は全く無かった。
お化け屋敷で隣の人間が怖がっていると平気になる心理とかそう言うあれでも無い。そもそもが指定校推薦、ほぼ合格確定のあれなのだ。

「三成、喜んでくれたのは判ったゆえ少し離れぬか。」
背骨が折れるかと思うような力で抱き締められ続けては流石に苦しい。長い体躯を折り曲げて懐いてくる頭を軽く叩いて促すと、僅かばかり腕の力が弱まり、やっと楽になった呼吸に安堵してほっと息を吐いた。

吐息はすぐ傍の薄い耳を擽ったが、それを別の意味で受け取ったらしい三成は感極まった表情で腰を押し付けてくる。
「漸く貴様と同じ学舎に通う事が出来るのだ。喜ぶなと言う方が無理がある。」

三歳の差は大きい。三成が小学校を卒業してから、二人は一度も同じ学校には通えていなかった。

毎朝違う時間に起きて真逆の道を通い、徒歩十歩の距離に住んでいるにも関わらず学園祭ですら顔を合わせる事の出来なかった日常に、寂しさを感じていたのは己もだ。険の抜けた顔を覗き込むと、薄い唇に口付ける。
「目一杯可愛がってくれやれ、三成先輩。」


その後合格祝いと称してベッドに雪崩れ込んだのだが、これではどちらが祝われているのか分からないではないかと思いつつ満更ではなかった自分が居て、それがまた悔しい。