歯に衣着せぬ


この愛しい人は、いつか自分の所為で死んでしまうだろう。

三成は足の間で動く小さな頭を眺めながらそう思った。
喉の奥まで使って必死に自分を悦ばせようとしている吉継の動きや態度に煽られ昂っていく肉体とは別に、机の上に置かれた木の彫り物を見る視線は硬く、それにより引き出された思い出がより一層、三成の脳髄を冷やして意識を恋人から引き剥がす。


初めて口取りをねだった日、吉継がその喉へと吐き出された体液に噎せて根本を軽く噛んだのが始まりだった。
低く呻いたのは二人同時で、直後に萎えた陰茎を口から離した吉継が、元々悪い顔色を更に悪くさせて、震えながら己の噛んだものを撫で謝罪する。
「みつなり、三成、すまぬ…。」
「案ずるな、大した強さでは無かった。」
泣き出しそうになった吉継を撫でて宥めて抱き締めて、それでも聞かぬと判れば最後は無理矢理口を塞いで押し倒し、その日は何とか誤魔化した。


件の木彫りが完成したのは、その三日後である。
予め、数日は会えぬと告げられていたので(だからこそ口取りなどねだった訳だが)会えぬ事に疑問は持たなかったが、問題は刑部の手に抱えられた箱だ。
仕事の報告だけではない期待を抱いて呼ばれた部屋に訪れると、すぐさま来訪に気付いた吉継が上機嫌にひらりと手招きをした。
「三成、丁度良い所へ来やった。」
久方ぶりの恋人の姿に、此方も機嫌を良くして近付くと、大事そうに抱えられた箱は空であるということが分かる。
それは何かと問う前に、吉継は口元に手を当て、ずるりと白いものを吐き出した。



「刑部、貴様…歯が!」
「ヒヒッ、良いれあろ(良いであろ)」
開いた口腔内は赤一色で、最後に会った時には真珠の粒のように行儀よく並んでいた歯は一本たりともその中に残ってはいなかった。
「一体、何を…!」
予想の出来事に言葉を紡げずにいると、吉継再びその細工を口の中へと押し込み、一度舌舐めずりをしてからうっとりと笑む。
「これでもう、ぬしを傷付ける事も無い。」

欠片も余さず毟り取られた歯の残骸は、木で出来た細工に埋め込まれており、普段はこれを口内に納めて食事や会話をするのだと言う。元々、口をさらけ出す機会も少なく、病弱故に食事も柔く煮たものが主である。生活に支障は無いと甘い声で囁かれれば、三成の思考などあっという間に崩れて融けた。



柔らかい歯茎に扱かれて、遂に絶頂が訪れる。
吉継は嬉しそうな顔をして口一杯の精液を飲み込むと、いそいそと着物の袷を開いて腰に跨がった。

病に痩せ細った身体に鞭を打ち、歯の無い口で男の陽物をしゃぶって全身を余す所無く抉り取られる。女郎屋に売られた女だってここまで酷い扱いをされる事は中々あるまい。
それでも私は、抱く事も頼る事も束縛する事も破壊する事も止められずに、それどころか刑部が総て赦すのが悪いのだと責任を擦り付けて今日もこの細い身体を散々に痛め付けるのだ。

「みふなり、あ、ああ。」


喋れぬ口で私を呼ぶ刑部の嗚呼、なんと愛いことか。