CELEBDUNK


「んんっ……あ、あっ!」
「くっ…!」

響くのは艶やかと言うには激しすぎる男女の声と、肉を打ち付けるようなパチンパチンという粘着音。それに時折水音が混ざれば、扉の向こうで行われている事なんて簡単に想像がつきそうなものだ。
例に漏れず家康も、扉から数メートル離れた場所で一歩も動けず固まっている。
何故だ、自分は部活の入部届けを出しに来ただけなのに、一体何がどうしてこうなった。

しかも何より彼を困惑させているのは、聞こえる声がどこからどう聞いても友人達のものであるという信じられない現実である。
二人が恋愛関係にあるのはよく存じております。だからと言ってこういう事はもっと時とか場所とか場所とか場所を選んでだな!!って言うか此処ってバスケ部の部室だったよなワシ間違ってないよな!

そうこうしている内に、やがて一際高い女の声が響き、ややあって男女のクスクスと笑い合う声と甘ったるい空気が扉越しに漂ってきた。
終わったのなら声をかけても良いだろうか、しかし終わったとは言えさっきの今で乱入するのも気が引ける。そもそも自分は何故この部屋に入ろうとしていたんだっけ、此処って何の部屋だっけ。
そんな事をつらつらと考えている内に、一周回って逆に三成と吉継が自分をからかおうとわざとやっているのではないかと言う気さえしてきた。いやむしろそっちが本命だろう、だって考えてもみろ此処は学校だぞ吉継はともかくとしてあの無駄に真面目な三成が神聖な学舎でおセックスなどするわけがない。

一旦結論づけるとそうであるとしか考えられず、その手には引っ掛からないぞと妙な高揚感を抱えながら勢いよく扉を開ける。
「おおい三成に刑……ぶ……。」

まず始めに柔らかそうな丸みが目に飛び込んできた。端的に説明すると刑部がパンツはいてない。

「やれ、鍵を忘れておった。」
「イイィィィエェェェェヤァァァァスゥゥゥゥ!!!貴様、貴様よりにもよって刑部の素肌を……貴様許さない!!」
鍵閉めてなかったのはそっちじゃないかとかこんな所でナニしてるお前達が悪いんだろうとか色々と言いたいことはあったのだが、予想していなかった光景に驚いて上手く口が回らず、その場に立ち竦んだまま喉の奥から呻き声のようなものを溢すのが精一杯であった。

幸いにも三成は吉継を庇うように立ちはだかっており、攻撃を仕掛けてくる様子は無い。
扉を開いた瞬間は吉継の尻にばかり目が行ってしまい他の所を気にする余裕が無かったが、よくよく見れば三成はワイシャツの前を全開にしているしベッド代わりであろうソファーの下に落ちている白い布は恐らく吉継の下着である。騙そうとしてるとか言ったのは誰だ、そうか自分か。邪魔して悪かったなと謝れば、今なら許して貰えるだろうか。

吉継は捲れ上がったスカートを直して向き直った。いいからパンツはけと言う家康の心の声はどうやら届かなかったらしい。
「して、我らに何の用ぞ。」
この場にわざわざ乱入して来るくらいなのだから、余程急ぎの用なのであろうなぁと唇を歪ませた。

「え、いや、二人じゃなくて、ワシはバスケ部に入ろうと…。」
困りながらも慌てて違うと首を振ると、何故か吉継はその場で腹を抱えて喉を震わせる。
「ヒ、ヒヒヒッ…ぬしは入学したてで知らなんだか。バスケ部部室は今やただのヤリ部屋よ。」

槍部屋…とわざとらしい脳内変換で自分を誤魔化そうとしたが無理だった。
「え、は、ヤリ部屋って…え、部員は!?」
叫びに近い問い掛けに返事をしたのは、未だ笑いの収まらぬ吉継ではなく、その背を支えながら呆れたように鼻を鳴らす三成だ。
「この学校のバスケ部は名ばかりの部活だ。ここ数年は試合どころか練習すらまともにしていない。」
その事実を聞いた途端、家康の膝からみるみる力が抜けていく。バスケ部なんてメジャーな部活じゃないか何でそうなった。これはアレか、漫画みたいに熱い心をぶつけて部員達の目を覚まさせるとかそんなイベントをクリアしないといけないのか。
絆の力で何とかしたい所だが、相変わらず吉継はニヤニヤと薄笑いを浮かべているし、三成は我関せずと恋人を抱き締めてちゅっちゅしている。この二人をどうにかしない事には前へと進みそうには無いが、四百年越しの今でありこればかりはどうにもなりそうにない。


家康が青春を手に入れられる日は、残念ながら遠かった。