かんがえるひと

吉継はその師である半兵衛の教えを引き継ぎ、ころころと表情を変え止むこと無く言葉を紡ぎ出して相手を惑わす『動』の策士であった。
対する元就は常々鉄仮面と評される動かぬかんばせと必要最低限の言葉のみによって兵を操る『静』の策士である。
真逆の手法を利用する二人は果たして相性も悪かろうと思われていたが、どちらも知を操る者同士共通の話題も多いらしく親交が深まるのに時間は掛からなかった。

手を出したのは吉継が先であった。
「嘘をばら蒔く手伝いをな、して欲しいのよ。」
正直な者は虚言を躊躇い、ひねくれ者は協力などして堪るかと突っぱねる。更に真実が零れても、言い触らしていたあの戯れ言かと勝手に解釈してくれよう。
「ぬしとわれとが、唯ならぬ仲であると。」
しかしそれは単なる彼の好む性質の悪い戯れの一手で、元就が普段らしい、そう普段らしい冷ややかな一瞥を投げて仕舞いにすれば何も始まらぬ日常になる筈だったのだ。


元就がその腕を取らなければ。


「愚かオロカ。」
「全くだな。」
賽の目がどう転ぶかは未だ解らないが、未来の手は幾つも考えてある。その先にあるのが何であろうが、出されたならば我々の誇る知を以て片端から飲み下してやろう。
例え浄土でも、極楽でも。