おうちにかえろう

「三成も吉継も酷いんだ!!」
泣きそうになりながらそう訴えた先では、同級生の政宗が苦笑しながらフルーツ牛乳のストローを噛んでいた。
記憶をすっかり取り戻した後、以外と近くに居た前世からの友人にそれとなくカマをかけてみた所「今更思い出したのか!?」と一つしか無い目を見開いて盛大に驚かれた。
どうやら彼や両親、他諸々の人間は総じて小学校に入る頃には前世の事を思い出していたようで、二桁の年齢を数えても過去の事を思い出さぬ自分に、もうこれは記憶が戻らぬものと納得して己の前では前世のあれやこれやを話す事を控えていたらしい。
だが総てをすっかり取り戻した今となっては、これで隠しごとは無くなったと何の遠慮も無く今まで以上に・・・いや今までもそうであったのかもしれないが、とにかく自重と言う言葉を投げ捨てて全力で睦み会っていた。

「この前ワシが起きたら二人とも居なくて、夜にやっと帰って来たと思ったら『すまぬ、ぬしの事をすっかり忘れていた。』『私と吉継は外で夕飯を済ませて来た。』なんて言うんだ!?二人は外でディナーなのにワシだけ昼も夜もカップ麺だったんだぞ!?」
しかも結婚記念日でも何でもなく、ただ単に両親の休日が重なったというそれだけの理由で、である。高校生の息子を持つ両親とは思えぬそのラブラブっぷりには、驚きを通り越して最早呆れすら覚えかねない。流石にこの仕打ちは泣いたって良いだろう。
「Ah〜、相変わらずだなあいつらは。」
「そうなんだ、ワシが一人っ子なのが不思議・・・・・・待てよ、忠勝を弟に欲しいって言ったら産んでくれるんじゃないか!?」
二人ともまだ若いし、大丈夫!何なら自分がオムツの面倒まで見ても構わない。俄然子育てに対してやる気が沸いてきた。帰ったら早速ねだってみよう、来年の誕生日プレゼントを今から用意するだけだからって。
「相変わらずなのはテメェもか。」

そう、相変わらず、彼らの関係は驚くほど変わっていない。戦国の世では色々なものに紛れて見えづらくなっていただけで、真っ直ぐに通った感情や互いが互いを必要とし支え合う純粋な心は、少しも曇ってなどないのだ。
自分に記憶が無かったのは、きっと無意識に封じていた為だと、今なら判る。二人が恐れていたように、己もまた怖かったのだ。前世のしがらみを思い出した故に、再び絆を断ち切ってしまうことが。

時計の針が動き予鈴が鳴った。次の数学が終われば今日の授業は終了で、気合いを入れねばと思う自分とは反対に、政宗は最後だからこそやる気が起きないと肩を落とす。
「sweetsが食いてえ・・・帰りどっか寄らねぇか?」
「すまない、今日は用事があるんだ。」

残念そうに前を向き教科書を用意する政宗には申し訳ないが、朝からそわそわとしてずっと落ち着かなかった。それもそのはず、今日は三成の誕生日なのだ。


「早く帰らなければ。二人が待っている。」