おうちにかえろう

夢を見た。
あれは中学生だった頃の事だ。テスト期間か何かで普段より早く家に帰ると、母がソファでうたた寝をしていた。風邪を引くといけないと思い、ブランケットを持って彼女の元へ向かった所、気配に目を覚ました吉継は、声にならない悲鳴を上げて、家康の手を叩き落としたのだ。
驚いて固まった家康に、母は慌てて怖い夢を見ていたと謝罪し赤くなった息子の手を撫でた。
今思えば、あの時の彼女は自分の顔を確認した上で狼狽していた気がする。


家康は両親が大好きで、本当に大好きで、そして両親も自分の事を心の底から愛してくれていると知っている。
傷付けたい訳では無い。が、だからこそ隠し事などして欲しくは無かった。弟妹が居ない理由は、二人が己という人間の遺伝子に何かを感じているからなのではと、要らぬ邪推すら浮かんで心を揺さぶる。
このまま二度と目が覚めなければ良いのに。そうすれば、哀しむ二人を見なくて済む。

しかし、時間が経てばやがて目は覚め日常は普段と代わりなく動き出す。昨日の痕跡など欠片も見せず起こしに来た母に、もしや全て夢だったのでは無いかと疑ったが、ベッドに染み付いた涙の跡がそんな希望を打ち砕いた。