血よりも濃くて

「ほんに、大きなやや子よな。」
常は引き攣ったように唇を歪めるだけのそれを柔らかな微笑に変えるのは三成だけの特権で、その銀髪を子供にするように撫でるのは吉継だけの特権だった。
包帯だらけの腹に向かい擦り寄る姿からは、凶王の二つ名など感じる事が出来ず、むしろ見る者に獣の仔と対峙した時のような庇護欲すら抱かせる。

「我はぬしの母になった覚えは無いのだがな。」
ヒヒ、と癖のある引き笑いの声は心の底から愉しそうであり嬉しそうであり、膝の上にある横顔を見つめる視線は慈愛に満ちていた。

「下らん。血の繋がりなど何になる。」
そんな風にばっさりと斬り捨てはしたが、これでも三成は両親も兄弟も健在である。身内は些か苛烈の過ぎる凶王に手を焼いている節があると言うものの、基本的に家族仲は良好で、彼自身も身内を疎んじているわけではない。
三成がこのように言うのは、単に真上に居る友の為だった。
病を得てからと言うもの、吉継は身内と絶縁状態になっている。それは誰が悪い訳でも無かったのだが、三成には納得のいく事柄では無かったらしく、事あるごとにこうして不満げに鼻を鳴らしている。

「ぬしはちぃとばかり周りに目を向けやれ。」
自分達を結ぶ言葉を選ぶとしたら、結局は単なる友人。それだけだ。三成は否定するが、実際のところいつ綻びてもおかしくない細い繋がりだと吉継は思っている。
柄にも無く感傷的になってしまうのに理由は要らない。

「ならば私と夫婦になれ。」
形が無いと言うのなら形にすれば良い。むきになる親友の冗談に、あい解ったと何時ものように笑うと、嬉しそうに顔を綻ばせたので吉継もまた穏やかな気持ちで流れる銀糸をじっと眺めていた。

翌日早速、白無垢が用意されるなどとは思っていなかったので。